長編お話「鬼子のヒオリ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「随分賑やかかったじゃねえか。」
けへへ、と笑う声が聞こえて、私はヒトがそこにいるのが分かった。

お爺ちゃんが帰って、私は夢の中の台所でお酒の後の湯呑みを洗っていた。
「おい、おい、
人間にまともにクチ利かれたからっていいきになるんじゃねえぞ、この化け物よ。」
げはは、とヒトは笑った。
ヒトは相手にしても仕方がない。ヒトは自分の言いたいことしか言わない。ヒトとは会話出来ない。

ヒトとは私の中のコンプレックスなのだ。けして人らしく生きられない私のコンプレックスが、
ヒトの姿になって時々現れる。
だから私はヒトとは話が出来ない。私の聞きたくない事ばかり話すに決まっているからだ。


「おい、おい、おい、
お前、いい気になんじゃねえぞ。お前はケガラワシイ化け物の娘だ。
人間に仲良くしてもらったからっていい気になんじゃねえぞ。
まああの人間もケガレタ生神くらいか。」
ナハハハハ、となおもヒトは笑った。
今日はよく笑う。こいつが笑う声は本当に耳障りだ。
私が大嫌いな音波をわざと探して拾い集めて、それを使って私を笑う。
だからものすごく不愉快なのだ。ヒトが私を嫌っているのがよく分かる。

私はヒトを無視して洗いものの続きをしていた。

「つくづく惨めなやつだよな、なあ、おい、ケガレタ化け物。
お前よ友達ってろくなのが出来ないのな。
やっと仲良くしてもらった人間が神食らいか。ばがじゃねえの。
自分の親父を殺しに来たやつと何仲良くしてんだよ。
お前ばかだろ。お前ばかだな。
さすがはケガレタ化け物の子供だな。げはは、お前はばかだ。
身の程も身の置き場も分かってねえばかだ。」

私はヒトが大嫌いだ。ヒトはいつも私の本音を言いにくる。ヒトは私が普段思ってることしか言わない。

私はわたしが嫌いだ。ヒトとしてのわたしが大嫌いだ。
誰のことも好きになれない、誰のことも大切に出来ない、ヒトとして。ヒトはそのことをよく分かっている。
だって私なんだもん。
私はヒトが嫌いだ。
だって私のことなんだもん。