長編お話「その顔に、根の痕」15 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

目の前に醜怪な生きものが姿を表したのが感じられて、
焼き肉の脂がバチっとはぜた音に私は震撼する。

傷痕の着いた皮を縫い合わせて作った空気の読めない縫い包みみたいな、
意味のわからない、意図の読めない、おそらくそんなものどっちもない、
悪質な嫌がらせのまっただ中に居る。私は居る。
小川さんの存在が、いや、違うな。

小川さんなど存在していない。
卒業アルバムにさえ載っていないではないか。小川さんなど存在しない。
私は、そして私たちはどういう経緯をへたのか
恐ろしく独善的な嫌がらせのまっただ中入り込んでしまったようなのだ。
架空の同級生を次々に飼ってしまうと言う嫌がらせ。
私の酔いつぶれ鈍った頭はそんなことをもろもろと考え続けていた。

網の上で焼かれているロースがなんてリアルだったことだろう、食べ物、として。

「小川さんを探そう。」
力任せに飲み続けてぐだついていた私の隣で、
冷静にカクテキを咀嚼していたヤッちゃんが言った。

「小川さん? さがすって?」
坂岡くんがトングで肉をめくりながら聞き返した。

「いくらなんでも、同級生にこんなこと続けさせとくわけに行かないでしょ。
どんな訳が有るにしたって。
小川さんを探して、会ってみて、話をしたほうがいいと僕は思うんだ。」
とヤッちゃんは話す。それもそうかもそれないな、と坂岡くんはいった。

何を話すと言う事でもないだろうがな、と岡村くんも言い出した。
「確かにまあ。俺が言うことではないがあまり続けて欲しいことじゃない。
例えどんなに繋がりが薄い知りあいでも。
知りあいには違いねえんだからな。」
そうでしょ? とヤッちゃんが同意した。小田切も無言のままその話し合いに加わりつつ、焼酎のお湯割りを呑んでいる。

私一人が、
こいつらいったいなんの話をしてるんだ、と言う謎でこんがらがっていた。