小説「泥の仮面」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

クリーニング屋から帰りながら私は釈然としない思いを抱えている。より正確に言うなら、

イライラしている。クリーニング屋から嫌味を言われたからだ。

「何回も電話かけさせやがって、一回で取りに来やがれ」

とは言われないがと言うようなことを言われたのだ。
引っ越したばかりで初めて預けるクリーニング屋から、私は出来上がった衣類を受け取りに行くのを催促されたのだ。

私はそのクリーニング屋の電話番号を知らなかった。
知らない番号から何度か携帯電話に電話が掛かっていたので、不信に感じて出ずにいるうちに、上のような嫌味を言われた訳なのである。

すっきりしないのは、そのクリーニング屋の奥さんが満面の笑みで嫌味を言ったことにある。
照り光るような完璧な笑顔で、
「何回も電話かけさせやがって、一回で取りに来やがれ。」
と、は、言わないがそう言う意味の事を言われたのである。なんで笑って言ったりするんだ。

嫌味を言うくらいなら笑わなければいい。
笑うくらいなら嫌味を言わなければいい。
何で笑いながら嫌味を言ったりするんだ。

だから私は釈然としなくて、だからイライラしているのだった。受け取った喪服のツーピースを持って帰りながら、私はイライラしていた。

まるで泥で出来た仮面だな。私は考える。
泥を練って人の顔を造って、焼きもせずに天日で乾かしただけの所に、絵の具で笑顔を書いたのだ。
でも笑顔の下にあるのは、野立った泥だ。泥である以上は仕方ない。

下が泥である以上、上に何描いたって同じではないか。
でもあの奥さんにそんなこと言ったって無駄だ。あの奥さんは自分の顔が泥なことに気付くことはない。

笑い続けている人間は自分が泥であることに気づかないのだ。

私はむかむかしながら家への道を急いでいた。笑うことを止めたときに人は自分の顔が何で出来ているのか知るのだから。