長編お話「鬼子のヒオリ」の12 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

稲兄さんに投げ飛ばされた三朗彦坂道の脇の藪の中に容赦なく突き落とされて、落ちながら人の姿になった。
そして笹の葉っぱをいっぱい髪の毛にくっ付けながら立ち上がって、怒ってるんだかびっくりしてるんだか、要するにそんな顔をして、叫んだ。

「兄やん、何すんだよ!!」
稲兄さんは冷静にその人と向き合っていた。三朗彦は自分が無視されたのが余計に腹立ったみたいで、人の姿のままグルルルグウ、と唸った。
「…うちの若いのが失礼をした。」
「貴方は土地の神か?」
とその人が棒を担ぎ上げながら言う。羽羽木、話の分かりそうな方が来てくれた。
と言った。
「鏑木の田を守っているものだ。
この辺りでは亥の神とも呼ばれている。」
左様ですか、とその人は口調を違えた。
「お姿を拝し、慎んでご挨拶申し上げます。」
そう言って稲兄さんに手を合わせて頭を下げた。

「おい、あんた俺とは随分な違いじゃねえか。」
俺は里山の守神だぞ。
「俺にも頭さげやがれ。」
三朗彦が怒る。人の姿なのに牙が生えてきている。
「だから止めなって三朗彦。」
と言うと、
「鬼子は黙ってやがれ!」
と余計に切れられた。しかし、
「三朗彦! お前はこのあと山の親父さんとこで説教だ!」
と稲兄さんに怒鳴られて、やっとしゅんと静かになった。でも不当に叱られた時の悔しさで目一杯な顔になって、
なんでだよ。
と小さくいいながら頭に着いた葉っぱをむしっていた。私も木の枝とか取るの手伝ってあげた。

「いよいよ鏑木にも器使が来るようになったか。」
「ご安心を。必ずこの土地の善いように。
就きましてはこの辺りに連名のお宮が有るはずなのですが。実は道筋に迷っております。」
その人は稲兄さんに話すとき口調が全然違うのだった。
「ああ、あるぞ。日織。この人を山王宮に案内してあげてくれないか。
俺は、あの馬鹿を連れて帰る。」
と言うなり三朗彦の姿が消えた。きっと稲兄さんに首根っこ捕まれたんだろう。
「じゃあお嬢ちゃん。ちょっと頼めるかな。」
私は稲兄さんを見た。稲兄さんは強く頷く。
「分かりました。」
私は二人に対して同時に言った。