長編お話「鬼子のヒオリ」11 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「鬼子!!」
と言う叫び声と、グアルアァ、と息を吐くのが同時に聞こえて、三朗彦が牙を剥いてその人に飛び掛かった。

「三朗彦?!」
「なんだ!、山犬か?」
その人は咄嗟に布袋の細長い棒を構えて三朗彦を受け止める。
歯を止められた三朗彦は一度飛び離れると再びその人の首もとに狙って飛び付こうとする。

「何してるのよ、三朗彦!」
三朗彦は興奮していた。
グルルルル、と唸り声を挙げて何度も何度もその人に食らいつこうとしていた。こんなに怒り狂った三朗彦を初めて見た私は、なんにも考えられなくてただ呆れていた。

三朗彦が食って掛かる度に、彼は棒を使ってその牙止めていたんだけど、
「あんまりこいつに噛みつかれると困る。悪く思うなよ、山犬くん。

羽羽木、言従う、“弾ぜる”。」

と言うなりぱん、と乾いた音が響いて三朗彦の体が棒をから撥ね飛ばされた。
グアン、と鳴き声を挙げて三朗彦は道に転げ落ちる。
「三朗彦!」
私はびっくりして三朗彦に駆け寄った。何が起こったのか分からないけど、三朗彦がしんぱいだったのだ。
「大丈夫?」
なにするんですか、と私は三朗彦を、何かして、撥ね飛ばしたその人を非難した。

「てめえ、生神喰らいだな!! 鬼子やおやっさまに何をしにきた!」
三朗彦はグウゥ、と弱く吠えながらも直ぐに立ち上がってまた叫ぶ。
私は久しぶりに見る三朗彦の狗の姿がすっかり大きくなっているのを見て思わず情況を忘れた。
真っ白だった毛は太く長くなっていて刃物の様な光沢が宿っていた。
その輝く毛並を目一杯に逆立てて、三朗彦は不思議なお兄さんを威嚇し続けていた。

「災難だったな、羽羽木。すまん、山犬くん。でも先に掛かってきたのは君の方なんだからな。」
「うるせえ気安く呼ぶんじゃねえ! 俺はこの鏑木の狗賓だ! 鬼子やおやっさまに手だししよおってんなら只じゃ置かねえ!!」
「よしなよ、三朗彦。」
私は言ったのだかそんなことでは三朗彦の癇癪は治まりそうになかった。

「狗賓? 随分若い狗賓なんだな、この山は。」
その言葉に三朗彦は完全に怒ってガンガン、と吠えた。
「安心してくれ。狗賓くん。
俺は確かに神喰らいだが、喰らって消すのが目的じゃない。聞いたことは無いかな? 連名の“器使”の話しは。」
「ウツワシだと?」
と三朗彦が吠えるのを止めたとき、
「全くお前はものを知らなすぎるんだ。」
と稲兄さんがひょいと三朗彦の体を抱え挙げて坂道の方に容赦なく投げ飛ばした。