死に急ぐ欲求となお生きようとする本能が合せ鏡になって
無限に広がる現実の何処でもない場所に、私は腰を降ろしている。
一方の鏡には私の肉体が、もう一方の鏡には私の精神が映っている。
それぞれがそれぞれの実態を映している筈なのに、
事実そこにあるのは似ても似つかぬ矛盾した幻でしかなく、連綿と映し出されていつ果てるとも知れないそれは他ならぬ当事者である私の事など一切意に介さず、
つまり罵り合いをしている。
私は自分の肉体と精神が互いに憎み合う声を聞く。黙って聞く。
生を臨む肉体と、死に向かおうとする精神が互いを邪魔にして罵り合っている。私はその声を聞く。黙って聞く。
肉体は存在することを求めて苦悶し、精神は消滅することを喜んで嬌声している。
そのどちらもが私にはにはいとおしく、だからこそどちらもが厭わしい。
私にはそのどちらもが有用でありだからこそそのどちらもが無用なのだ。
生存は厭わしく消滅はいとおしく、長生はいとおしく消失は厭わしい。
私にはそのどちらもが面倒でたまらないのだ。
そのどちらもが私の手には余る、重すぎる。
私は無限に続く合せ鏡の現実に挟まれて、有用と無用のどちらをも畏れどちらをも憎みながら、
何処でもない虚空に向かって深く首部を垂れる。