生まれた時に全部の答えを知っていた。
これが神さまと人の一番の違いかもしれない。私は別に神さまではないけれど、でも生まれた時に自分の
正解
を知っていたという点では三郎彦と変わらない。
人は生きていく途中で自分の中に 正解 を探し続けるものなんじゃないかな?
私は違う。私の正解はもう此処にある。生まれた時から私は私の正解を持っている。
この辺りが、私が人として生きていけない一番の理由かな。
これ以上を求めようがないのだ。
私の可能性は完成してしまっているので
生まれた時から。
人は移ろうものだろう。正解を求めて。私は違うもの。私のおとうさんは野槌で、私は生まれた瞬間からその事が分かっていた。だからそれが私の人生の完結した瞬間。
私は普通の人間としては生きられない。これが私の人生の動かぬ正解だ。
三郎彦と初めて会ったは三歳の時だった。だからあいつも生まれて五年たっていたはず。私より二つ年上だと主張しているので
「おまえ、鬼子だろ。」
うら庭でひとりで遊んでいたら、三郎彦が山から降りてきてそこにいた。
うん。
と私は答えた。三郎彦は五歳の男の子の姿をしていた。あいつもまだまだそんな姿にしかなれなかったのだ。
「おまえいっつもひとりだから俺が遊んでやるよ。」
とその時三郎彦は言った。
「いい。」
と私は答えた。
「なんでだよ。」
三郎彦は露骨に不機嫌な顔をした。
「俺はここの山の狗賓だぞ。山神だ。俺が遊んでやるっていってんだからお前は言うこと聞くんだよ。」
「いやだ。」
私は三郎彦をにらんで答えた。
「だからなんでだよ。」
俺が遊んでやるっていってんだろ。三郎彦は地面をだんだん踏みしだいて苛苛していた。
「たのんでない。」
「はあ?」
「いっしょに遊んでなんてたのんでない。」
「なんだよ、お前は遊び相手も居ないくせに!」
「居なくていいもん!」
そう怒鳴り返すと、三郎彦は不機嫌、よりは物凄く傷付いた顔をして、
お前なんかもうしらねえからな、と言うと狗の姿になって山に駆けて行った。白くて小さな綺麗な狗だった。
まああいつもあの時遊び相手がいなくて退屈していたんだろう。
事実三郎彦はしょっちゅう私の家に来ては柿の木で遊んでいくようになったのだから。
翌朝は家の近所が素晴らしく荒れていた。
散った葉っぱや折れた木の枝がそこいら中に溢れていた。
三郎彦の力弱いから木だの岩だのこんなに騒ぐ
私は稲兄さんの言葉を思い出しながら学校に向かった。そして、
お前のせいじゃないよ、三郎彦。と心の中で思った。
そんなこと言われなくても分かってるってえの。
と、三郎彦が応えたのが、聞こえてきた気がした。