陣痛のさなかに | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

次男、はれくんを産み落とそうたとしていた時のこと。
痛みが徐々に激しくなっていって
いよいよ外に出てくるのかと喚きながら待っていた。

体が半分に割れる様な痛みの中で誰だって孤独である。
もうあと何回も無いな残りの人生で、と言う大ピンチのただ中に一人っきりでいて、頭のなかに閃く物があった。

私のこの子が生まれ落ちようとしている今この同じ瞬間に、
確実に存在している。

遠い国の、銃弾が飛び爆撃に晒された廃虚の様な街の、
埃まみれで明かりも入ってこない絶望的不衛生な部屋の床でのたくって、
同じく赤ちゃんを産もうとして叫んでいる十代の女の子が確実にいる。

間違いなく居る。
このでたらめな世界を丹念に探せば一人くらい確実にいる。

それは妙に冷え冷えとした確信で、私は直ぐに控えている最後の激痛を待ちながら、誰とも知れないその彼女の事が頭に浮かんで仕方がなかった。

私が病院のベッドの上で喚いている、
彼女は固いコンクリの床をのたうち回って喚いている。

生まれ出でようとする子どもと
死に向かおうとする自分の肉体のあいだでめくれあがった皮膚にからっ風が吹き付けるようなやるせなさに半ば怒りながら、
ただなすすべなく喚いている。

私のお話は空想することから始まります。

冷たい床の上で悲鳴を挙げている彼女の存在は私の空想です。

しかし空想する世界と類似する事が現実に起きているからこそ、
私はそれをお話にしようとするのです。

この世が完璧に満ち足りた楽園だったら小説を書く必要なんて何処にもない。

身ひとつに沈澱していく苦痛や不快が醸されていくとき、
私は怒ったり哀しんだりしながらお話に向き合おうとするのです。

はれくんはすくすく育って5ヶ月になりました。
既にこの肉体に物語がぎっしり詰まっているような顔して寝ています。