「うんざりだわ。」
「わたしもだわ。まったく堪らないわ。」
「やりきれないわ。」
若い三人の娘たちは、祭りの衣装を整える年上の女から離れて、
まだ小さな額を互いに寄せ付けてさっきから、こう、嘆いていた。
「かんがえるだけでいやだわ。」
「まったくそうだわ。」
「ひどいきぶんだわ。」
同じ女から生まれたわけではないが、みっつの白い顔はどれがどうと言うこともないほど、よく似ていた。
まるい額、細い眉根、そして射抜くような硬い虹彩。
森から切った新しい杉で、踊りの円壇が築かれる。
円周に従って八本の柱が建てられ、それぞれ長い四手で飾られる。
そろそろ日が傾き出す。風が上がってくるのは夕闇に紛れてだ。ヤギの初子の毛で編んだとりどりの四手は、まだ地面を向いて、ゆっくりとそよいでいるだけだ。
歩くことを知らない野の獣のように。
円壇の準備が整うと、男たちは祭りの場から去っていく。岩棚の突端の、さらに突き出した槍のように鋭い崖に、一年に一度だけ組まれる踊りの壇。
ここに風は上がってくる。そのとき棚の男が近くに居たら、風は機嫌を損ねて去っていく。
だから男たちは数日かかった取り付けの仕事が、昼過ぎようよう仕上がると、
あとはもう興味がないように去っていく。ここからは女たちの時間だ。
ここに居て、何か出来ることがあるわけでもない。
朱と蒼を溶かしたような夕闇が始まる頃、色彩に促されるようにして柱の四手がゆらいだす。
海からの風が上がってくる。
壇に届くほど長く垂らされた四手は、突然目覚めたようにわらわらと暴れだす。
海から風が上がってくるのである。祭りの時間だ。
ソオオーーーーウ、ソオオーーーーーウ、ソオオーーーーーウ、
と虚空から鳴って響く音が聞こえてくる。呼び出されるようにして、女たちは円壇に登っていく。
それまでどこに隠れているのかは、
一切が棚の男には秘密だった。
“麓の女は男に感じて子供を得るのだという。”
行商人となっても時折棚に戻ってくる男は多い。道らしい道のない崖を通ってくるのに、彼らの足は便利なのだ。
棚で生まれて、麓に投げられた男たちは、麓の女との間に子供を得るらしい。
風を待つ娘たちには、夢物語にしか聞こえない。この世ならざる、遠い国の奇妙な生き物たちの行いにしか思えない。
“しかしこの上はあの娘たちにも、男と感じてもらわにゃならん。”
と、これが年寄りの言い分なのだった。
まったく堪ったものじゃないわ。
と最後の三人の娘たちは、半ば呆れ半ば恐れながら、そう話す年寄り男たちを忌避している。
自分たちに、得体のしれない、なにをさせようとしているのか。
分からない。
分からないけれど、ただ嫌悪だけが募っていく。
女たちは円壇の上に輪を描いて踊る。
四手に急かされて、いよいよ強くなる風に戯れるように、足を均し楽を奏でながら、輪になって踊る。
四手に掴まった風が、ヒョオオオウ、と啼く。
女たちは鼓を打つ。
ターン、タターン、テンテン、ターン
ターン、テテンテテンタン、ターン。
それを追って鐘を鳴らす。
ヒイイーーーン。
ヒイイーーーン。
ヒイイーーーン。
玉箒の枝は静かに歌う。
シエラ、シエラ、シエラ。
シエラ、シエラ、シエラ。
風を招き楽を手に持ち、女たちは踊り続ける。
やがて夕闇が色を無くし、陸と空の境目が、時の無限で塗りつぶされる。
続きます。