小説「紅血」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

じぶんはかくかくしかじかの病気をもって居ります。
と話すと聞いたひとは、

首を傾げて見せる。耳慣れない言葉なので意味が分からないのだ。
よって妥当な選択から、
宇宙から飛来したいきものを見る類似の視線を投げてよこす。
難病、治らない病気というのは確かにあるのに医者に行けば治るんだ、と言う迷信、これは一種の宗教である。
だったら私は神に見放されでもしたわけか。

いい加減面倒くさくなったので、
小首を傾げた善良なひとに私は、
『おまえんちの亭主だって今日にもうつ病になるんだよ。』
と思うことにした。
思うだけにしてもすーっとした。ハッカ味タブレットを噛み潰した要領で、すーっとした。

私は15歳で得体のしれない病気にかかり25のとき類似する症状が元で父が死んだ。
こんなに毎日癌で死んでいくのに自分は病気にならないと信じていられるなんて、訳が分からない!

父が死んだとき私が感じたのは、
ああ自分もそのうちこうして死ぬわけね
と言うことだった。没すると言うことは考える術がないくらい日常だ。

これこれの病気をもって居ります。
と言うと、聞いたひとは首を傾げる。初めて聞く言葉だから。
そして私はその肉体の内に、何千と言う病巣が今まさに生きているのを思い描く。
そのうちいくらかは白血球の攻撃を避けて生き延びることを想像する。
すーっとする。
口の中がハッカ味になる。
つまり私はやなやつである。