「わたしだってね、本当はこんな電話かけたくないんです。
かけたくてかけてるわけじゃないんです。」
「じゃあ掛けなければいいでしょう。」
受話器の向こうに居る相手は声に涙が混じっていた。
「だってね。仕方ないじゃないですか。これだって仕事なんです。こんなだってれっきとした仕事なんですよ、こんな電話が。かけるのを止めてしまったら私は、月賦が頂けないじゃないですか。」
「だからってあなた、こんな山奥にソーラーパネルの勧誘したって、あなたご覧になってないでしょうけど、うちはもう日が陰ってるんですよ。どうするんですか。」
午後3時である。
「ええ、分かってますよ。知ってますよ。売電収入なんてはったりです。維持費や管理費でとんとんがいいとこです。下手したら赤ですよ。」
受話器の向こう側がなにやら手巾を用いた気配。
「あなたそんな、それじゃ詐欺と違いますか。」
「あくまで、詐欺ではないんです。実際日当たりよければ月に十万行くときもあるんです。
それに天候に文句をつけられる法律はないんです。」
「でもうちの辺じゃそんなことないんでしょ?なんでわざわざこんなところに電話したりするんですよ。」
「だって仕事じゃないですか。」
「もっと全うな仕事をしなさいな。」
思わず強い口調になった。
「あなたはまったく分かってない。ちっともわかっちゃないですよ。
仕事だなんて。
仕事だなんてね。ないです。ないんですよ、こちとら。食ってけないんです。なんでもしないことには食ってけないんですよ。」
電話の相手はこの後、ひとしきり身の上を嘆いては何度も手巾を使う仕草を聞かせた。
40で勤めていた工務店がつぶれたことや、ローンの残った自宅を手放すために自己破産申告した時のことや、そうこうしてたら一方的に離婚されて妻子はいく方知れずになったとか。就労支援講座でワープロと表計算の勉強をしたけど、なんにもならなかったとか。
私は、ああそう、ええ、まあ。と返事しながら、15分ばかり相手の話を聞いてから受話器を下ろす。
してすぐ電話台の引き出しを開け、知り得た内容をいつものノートに記しに掛かる。
何故こんなことをしているか、前職は何か、家族構成は、年収その他。
高齢者にかかって来る詐欺グループからの電話の内容を、逐一市役所に報告する。
今どんな詐欺を働く団体が居るのか、どんな手口で詐欺を行うのか、
役所がそのデータを集めるための生きた拠点、
‘官製カモ’
と言われているのが、私の仕事である。