余計なことをするのは男だけど、もめごとを持ち込むのは男だけれど、
これは昔むかしのずっと以前、未明の時代に、この禍いがはっきりした姿を持ち始めたころのお話。
王と王子、王の弟、その息子、先王の弟達とその息子たち、王族男子が集まって会合するとなると見渡す髭面は一様に渋い。
彼らにはずっと割り切れないと思っていることがあった。憤っているといってもいい。いっそ理不尽とも言えようか。
自分たちと、自分の姉妹、叔母、祖母、姪、従姉妹たちとの境遇の違いに、王族の男子はいつだって不公平な思いを抱いて飽かないのであった。
王は国、このころは同一家系を中心とした大規模な集落といったところである、それを治めている。
種まきや刈り入れの時期には全体の指揮を取る。
農作業には同家の女性たちも参加する。女性は重宝する労働力だ。草刈やモミ下ろしみたいに根気と時間の要る作業はなんといっても女の方に分がある。
その代わり男子には田んぼの畦板を切り出してくる重労働があるのだし、新しく畑を起こすのに邪魔な岩や枯れ木の根をどけたりすることは、だれに言われなくても自然と体が動くのだった。
そういった国の男女のなべてに号令して事細かな指示を与えるのが、王と王族男子の分担なのだけど、実際に、いつ種を撒いていつ田んぼに水を入れるのか、樋を開けるのはいつなのか、それがあすなのかまた十日後なのか、
その実際を決めるのは、巫子王として占議を担当している王の女同胞たちなのだった。
王は国を治めているけど、あらゆる決めごとは巫子王を中心とした王女たちが占して決めている。
王は一事が万事巫子達の指示に従うだけである。
王が自分で判断して種まきの時期を決めることはできない。
巫子王の判断に逆らって刈り入れを行ったりすると、その王は巫子王に咎められて、山の奥の墓穴場に捨てられた。
ところで国は一つきりなわけではない。
周囲の遠くない山や野に、別個の家系で保たれる異なる国が点在している。
地形が違うと気候も違う。
同じ年でも米のよく生る国とそうでない国がある。米のない国では冬が越せない。何人か身内を見殺しにすれば凌げるけれど、そうして耐えてさらに翌年、また米が生らないということは、この時代よくあることだ。
なので仕方ないけどの成り行きで、近隣の国と武力でもって小競り合いになるわけである。
他国との使者の行き来は盛んである。行商のやりとりも頻繁に行われる。だからその年に、どこの国が凶作で越冬の糧におびえているなどという話はすぐにも伝わる。
だから王と王子と、王の弟やその息子たちは、必然的に兵士でありいざ隣国といさかいとなれば弓取り太刀履き、胴前を重ねて死に合いの場所に向かわないといけないわけだ。
その日取りや、軍の進め方、いついつ隣国の王が動くとか、そのときどう攻め立てるべきか、そういったこともみんな巫子王たちが占議を開いて決めるのである。
いつごろからそんなふうにしているか誰にもわからないけど、でもいつからかそういうふうにして王は国を治めていた。
どうして巫子王のいいなりにならないといけないのか分からない。
巫子王と幕僚である王女たちには、王や王子や王の兄弟には見えない、聞こえない、理解できないことが、見えたり聞こえたりするらしい。
しかしそんなことは誠に理不尽ではないかと、あるときとある若い王子が悩んでいた。彼は憤っていた。
巫子王の占議にしたがって軍労しても、巫子の言うとおりに我が方勝ちたり、とはならないことだってある。
そういうとき王や王子は一応巫子王に不平を申し立てるのだけど、巫子王たちは占議に間違いがなかったかどうか再び「占議」を行い、結果いつだった
‘占議の決定に誤りはなかった。’
となるのだった。
敗戦はつねに男子の不手際なのであって、指示をだす王女たちには、なんのお咎めもない。
こういうことはまったく不公平だと、若い王子たちは憤っていたのだった。
そこでとんでもない事件をやらかす。
巫子王と幕僚である王女たちは、生涯清涼の身の上である。
王族に生まれた女の子の中で、特に見た目がよく健康で、物覚えが確かなものが先達の王女たちに選ばれて、次世代の巫子王候補としてしごかれる。
彼女たちは成人の年齢に至ると、一般の民の住居からは離されて、長い潔斎の時期に入る。
このとき幼児期までの心身の垢を落とし、それまでの自分の魂魄を一度殺す。
その後で、新しい体と生命をえて巫子として生まれ直し、以降占議に関わるいわゆる理解不能な技術を得るのである。
憤懣やるかたない王子たちは、あろうことかこの潔斎場に大挙して躍り込んだ。
潔斎場に男気は厳禁である。
潔斎の姿を見られることも御法度である。そんなことになれば潔斎そのものが意味を持たない。そして王子たちは潔斎の意味を破滅させることが目的なのだった。
若い王女たちは動転したと思うけど、動転して何を考えるというまでもなく、
若い男子の暴力の元に降されてことごとく陰拠を破られた後、仕上げに太刀で切って殺された。
これで今後は女子の言うことを聞く必要はない。王とその幕僚が政治も軍事もすればいいのだ。
当事者の王子たちにしてみればこういう気持ちである。
巫子王の側にしてみたら、大切な潔斎場を血液と陰液でさんざんに荒らされて、怒りもするし自分たちの圧倒的な不理もすぐ悟ろうし、すぐさま奥の沢の墓穴場にこもって、以後二度と出てこなかった。たぶん、全員で飢えて死んだんだと思う。
だいたいこういう事件が起きて、巫子王の治世が王による統治に入れ替わっていった。
でも最初はうまく行かない。
王が指示を出しても、米も生らなければ戦事もこてんぱん。これはあんまり酷い、いったいどうしてくれるのだ、怒るのは今度は国民の方である。
結局王の男子は困り果てて、同家の幼い女の子をもう一度選んでは巫子の占議を再開してみるのだけど、
一度自分たちで斎の社をめちゃめちゃにしているのである。
にわかに仕立てた巫子王に、かつての英明な技量は求めようもない。
国は三度まとまらず、代わりにまた男子が国の首長となり、王族でもそうでなくても、女性の待遇というのは日を重ねて年を追ってどんどんどんどん悪くなる。
どこの国とも、どんな人たちの間とも定かでないけど、確かにこういう男禍があって、
何を根拠にそういうかといえば、
現世を眺めること 斯の如し。
*分かりにくさを避けるための説明*
「古代ネタで、お一つ。」
ということで頭をひねったのですが、やはり難しかった。
これはお話というより単純な説明文です。小説の形にすることができませんでした。
着想としては、
古事記上巻で須佐之男が忌機織り場でひと暴れ →
天照が切れて天の岩戸篭もり
を、現実の弥生国家ではこんな感じに起こったのではないかな~
と脚色してみました。
実際聖武天皇くらいのころまでは、女性の皇族は大王の子孫として血統を認められた存在で、
国政の現場にもしっかり認知されていますが、その後どんどんセックスマシーンに下落していきます。
男性が読んだら気分悪くされるかもしれませんが、
まあ日本史の一つの解釈として。