知っていることを全部話しなさい、
と言われたので、僕はこんなふうに話した。
「僕の家に大きな水槽があって、魚をたくさん飼っていました。おじいちゃんとお父さんが好きだったんです。魚を飼うことが。
いっぱいの淡水魚です。綺麗な熱帯魚がいつもたくさん泳いでいました。水槽の中に。
あいつらは水質がなんとかなれば勝手に繁殖していくんです。
僕は魚のことはよく知りません。でも熱帯魚はとても綺麗な、色とりどりの姿形をしているのがほとんどだと、そう思っていました。
僕だけじゃなくておじいちゃんもお父さんもそう思っていました。だからみんなが不思議におもっていたんです。そいつのことを。
ペットショップからやまほど買ってきて、うまく繁殖してクレヨンの家族みたいなった水槽の中に、
一匹だけ真っ黒で背中がトゲトゲしていて、他の魚と全然違うのが混ざっていたんです。
そいつは気がついたら水槽の中にいたんです。
みんなが、気がついたときにはそこにいたんです。
いつからそこにいたのか誰にも分かりません。お父さんもおじいちゃんもそんな真っ黒い魚を買った記憶がないんです。
フナが一匹まざってたんじゃないの
とおばあちゃんが言いました。なにせ一度に大量に買ってきたものだから、いちいちどんな魚が入っているか気にかけなかったんです。
とにかくクレヨンの家族みたいに小さな色とりどりの魚が毎日泳いでいたんなら、それで満足だったからです。
おじいちゃんも、お父さんも。
こんなヒレの大きなフナがいるもんか
とおじいちゃんは反論しましたが、結局その魚がどういう魚で、いつから水槽に紛れ込んだのか誰にもわからなかったんです。
僕は中学1年生でした。
魚の入っている水槽はトイレに向かう廊下に置いてあって、あかりを消しても水槽のランプはともっていました。僕は夜トイレに行くときに、廊下のあかりをつけない習慣ができていました。
僕が中学1年生のある夜、トイレに行こうとその廊下を歩いていたら、話しかけてきたんです、その魚が。
紛れ込んだ、一匹だけブサイクな、黒くてごつごつしたその魚が。
‘よう。’
と。僕に話しかけたんです。
僕も初めは魚が喋ったなんて思いません。でも声がしたから立ち止まりました。声を掛けられたから立ち止まったんです。
でも廊下にはだれもいませんでした。
お父さんとお母さんは二階の部屋に居て、おじいちゃんとおばあちゃんは裏庭にある離れで寝ているはずでした。
僕はだれに呼ばれたかわかりませんでした。でも誰かが確かに僕を呼びました。
‘なあ、おい。’
とまた声がしたからです。
水槽の壁を見たら、ガラスのそれの向こうから、魚が僕を見ていました。魚の目は普通体の横についていますよね。
でもそいつの目は正面についていました。そのとき。人間や、犬や猫みたいな獣と同じに。
魚は正面向いて僕を見て、獣みたいに視線を合わせて僕に言ったんです。
‘力を貸してくれ。そうしたら、近々起きる災厄の時に、お前だけは助かるよ。’
魚はだいたいこんな感じに事情を話しました。
‘俺たちはもともと太陽の眷属で、月に奸計されて水の中に落とされた。
太陽の親はすぐそれに気づいて、今でも始終月を追い回している。
月のやりように腹をたてたからね。
敵の子分を堕としてしてやったりだった月だけど、太陽の親があんまり追い回すのを恨んでね。俺たち水に落ちた子供に呪いをかけたんだ。
潮目を作って、一生その中から出られずに放浪して生きろってね。
自分が追い立てられたみたいに、俺たちにも永久に潮に追い立てられて生きてろって、呪ったんだ。
ところで、俺たち太陽の眷属はこのことに非常に腹が立っている。
月のやり方はあんまりなものがあると思う。
だから俺たちは何万年と時間をかけて月に報復をする策を練ってきたのさ。
それがいよいよ実現しそうなのだよ。
だからお前の力を借りたい。
俺たちの起こす厄災は残念ながらお前たちも巻き込んでしまうけど、
でもおれをお前の孕ん中に入れてくれたら、
少なくともお前は無事で済むよ。’
僕が覚えているのはこれだけです。
あとは何も知りません。気がついたらこうなっていたんです。」
僕は話終えたけど、僕のベッドの周りを囲んだ、スーツの人や白衣の人は、
期待はずれで腹を立てている、
いやいっそ泣き出しそうな、そっちが叱られたみたいな融通のきかない駄々っ子みたいな顔をして、みんな黙っていた。
「すると君は、太陽光発電衛生のコントロール基地にハッキングをかけたことを知らないと?」
「はい。」
僕は答えた。
そんなことは知らない。やってもいないことは覚えていない。
「マイクロプラズマを照射して中継地である月のプラントを破壊したことも知らないと?」
「はい。」
またしても僕は答えた。
「しかしだね、現実にそういうことが起きていてね。プラズマ波は月を貫通してかつてのそれをただの岩塊にしてしまったよ。
それによって我々は地球規模で電力の供給が絶たれてしまったんだ。
自家発電用のガソリンがあとどのくらいあるか知っているかい?
ガソリンが残っている間に我々が何をすることが出来るか、
君にアイディアがあるかい?」
灰色のスーツを来てスーツと同じ模様の顔をしたおじさんがそんなことを話した。
「特にないです。」
と僕は言った。