小説「俺達」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

いじめは大人が騒いでいるだけだ。
だって俺達はいじめなんてやっていない。
でも、
“本人がいじめられたと主張したら、
それがいじめなんだ”
と、厚生労働省の人が決めたのだと。
だから俺達は今はなはだ面白くないことになっている。
吉田君をいじめたのは、山下君のグループです。
そういって校長先生にリークしやがった奴がいるのだ。
先生はそいつが誰なのか言わないけど、
“お前たちはそんなことを知りたがるべきじゃないだろう”
なんて言うけど、
俺達に言わせれば、そういうことを勝手に先生にバラス方が
悪質で悪意に満ちていると思うぞ。ていうかそのはずなんだ。
しかし大人は騒ぐのが好きなんだよな。俺達は、学校の先生とか自分の親がああだこうだ言うのを見ながら生きてきたから、ちゃんとそれを見抜いている。
“いじめをやった奴”
を見つけて、騒ぐのが大好きなんだということを知っている。その証拠に、俺達はいじめはやっていない。俺達は校長室の、偉い人が座るようなふかふかした茶色い椅子に一列に座らされて
(はっきりいって、窮屈だ)
「ぼくたちは吉田君をいじめました。
わるいことをしました。
ごめんなさい。」
と言わされようとしている。大人は俺達が謝る姿を見るのが大好きだ。だからこそ
素直に謝るなら許してやるのに。
と、担任の沢先生と教頭先生と校長先生が、優しい顔をしたり厳しい顔をしたりため息をついてみたりしながら、おれたち謝るのを待っている。
だから俺達は誤ったりしない。
だって俺達はいじめなんてしていないからだ。
吉田はああでもしないとどこにも居場所なんて無いやつなんだ。
喋りもしないし勉強も出来ないし体育も水泳の時間もなんにも出来ない奴なんだ。
そういう奴なんだよ。
自分でなんにも出来ない奴だったんだよ。
だから俺達はそれを吉田に教えていたんだ。
お前、今のところ本当に無価値なやつなんだぜ、って。
そのまま中学いって高校行って、どうすんの?
そうやって吉田に言ってやったんだよ。これは善意だ。
俺達は善意でそういうことをやっていたのだ。
俺達はいじめをやっていない。だから自分たちのことを誤ったりしない。
吉田は自分のことが良く分かったから、ちゃんと正しい選択をしたんだ。
俺達ががんばったから、そういうことを選ぶことが出来たんだよ。
俺達は善意の集団だ。吉田は正しい選択をしたんだ。
俺達はちゃんと知っているんだ。吉田みたいな人間が、この先うまくやっていけるほど、社会は甘くねえんだぞ、って。