小説「世界を救うおばさん」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

“沿岸から進行し首都の防衛拠点を占拠せよ”

軍学校の戦略科ゼミである。
もちろん私たちが首都を攻撃する訳じゃない。
“首都の攻略を目指す部隊はどんなルートを想定して展開するか”
をシミュレーションして、
実際に攻撃を受けた場合、
いかにすれば敵を撃退できるのか、
と言う課題に答えをだすゼミである。

戦略科の学生は
エリート
と言うことになっている。作戦を作る人間は前線に出られないから、後方で残るべき人材だけ受講させるのだ。
フィジカルよりインテリジェンスが求められる現場。
しかし私に限るなら、インテリジェンスに対してフィジカルが大変劣るので、落第しないために必死だった、
と言うだけなんだが。射撃も格闘もものすごく下手だ。

私たちの班は
“作戦中に起こりうる阻害要因の予測”
を担当している。
衛星地図、人口密度、店舗施設の分布、それらを繋ぐ交通、住居を戸建てや集合に色分けし、車がいつ何処から現れるか、

等々制限時間内に考えられることは全てノートする。
進軍に予定していた裏道で、突如トラックが横転事故を起こすかもしれない、とか。

「常に“気の利かないおばさん”を意識して作戦をプランニングしろ。」

と教官は説く。教官これしか言わないのか、と言うくらい説く。

「革命は常に、気の利かないおばさんによって破綻する。」

教官が主張するのは、
気の利かないおばさんの行動だけはどんなにデータを集めてもパターンをシミュレーションするのが不可能なんだそうだ。

「かれらは常に肉体に従い、それは意志の力を凌駕する。未だもって気の利かないおばさんの肉体が欲するものをモデル化することは出来ないのだ。」
と、教官の論である。
更には
「全国で斯くも多数の気の利かないおばさんが公的扶助で生かされているのは、万が一の時敵の進軍を阻害するためなのだ。」
と教官の論である。

因みに教官はしょっちゅう嘘をつく。
それは撹乱を狙って流れる情報を見抜くための修練なんである。