小説「ねがいごと」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私は学校をサボっていた。
私の部屋の壁は一部分が板張りで、ニスが劣化して変な色の木材が
縦長に貼り付けてある。
私は学校をサボって、自分のベッドの中で眠ろうにも寝られないでいる中、
自分の部屋の
板張りのところを見ていた。
材木は縦長に貼り付けてあるのに、
どういうわけか一部分だけ横向きに板が張られているところがあって、
その時私には
扉みたいに見えた。
“上手い具合にここがぱっと開いたら、
異世界から招待状を持ったサルとか出てきそうだな。”
学校をサボってだらけきった私は、そういう意味の無いことを考えて
自分のベッドでうっとおしい肌がけを足でまさぐっていた。
そうしたら
本当に横張り板が急に一枚ずつ
ぱんぱんぱんぱんぱん
と下に落ちていって、正に戸口みたいな空白がくっきりと現れた。
そして無いはずの向こう側の空間から、本当にサルがやってきたのだった。
「我が名は英知のサル、マルクス・アウグスティン。万能の主の使者。最良の魔法使い。
さあ君の願いを叶えよう。」
とサルは言った。
姿や大きさはきっとニホンザルに近い。
全身の毛が金色で、顔はうす桃色だった。
サルは赤いチョッキに黄色のネクタイを締めて、緑とブルーの螺旋を描いたとんがり帽子を被っていた。
そして茶色いステッキにもたれかかって、反対の手はかっこつけて腰に当てている。
私のねがいごとは一つだけだ。
「生まれたことを止めたい。」
と私は言った。
と、サルは目をまあるく広げてもともと出っ張っている口をさらに突き出す。
「な、なんだって。」
「だから、生まれたことを止めたい。」
私は更に言った。
「つまり、君は自分が生まれてきたことを無かったことにしてほしいというのかい?」
「それでもいい。とにかく、私は生まれてきたことを止めたい。
私は自分が生まれてきたのがいや。
生きているとかこの先生きていくとかじゃなくて、
生まれてきたことがとてもいや。」
と、サルは一瞬にして不機嫌な顔になり、
「ダメだダメだ。こんなやつなら、話にならん。」
と言って、入ってきた戸口からまたありもしない空間に去っていった。
サルが居なくなると、横張りの板は元のままだった。
何事もなかったように。
誰も信じないだろうから誰にも話さないんだけど、
私は断固あのとき目を覚ましていたり、サルに話したことはきっちり記憶に残っている。
サルのなんとも間抜けな顔や服装も、
こんなに詳細に覚えている。
そしてあの時サルがどうして私のねがいごとを叶えてくれなかったのか
それだけが今でもとても心残りでいる。