小説「ウケツカレユクモノ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

今も古来からの珍奇な習慣を守る村で、自分はフィールドワーク調査を行った。
大陸の険しい山の更に高い頂に住み着いた、今にも消え行く少数民の氏族集落だった。
幸運にも着いたその日が
“ホキの受け入れ”
の儀式だったので、好奇心に広くなっていた自分の目はさらに灯度を増していたと思われる。
彼ら氏族集団において、もっとも高齢の女性が
ホキ
という役割を受け継いでいるのだと、英語の上手いシェルパは教えてくれる。
このホキと言うのは巫女というか生き神と言うのか、ともかく自分は経験したことのない不思議な存在であった。
「前のホキが死んだので、新任者に受け入れの儀式を行っているのですよ。」
とシェルパは言った。そしてこの村にあっては、この瞬間がもっとも女性を美しく飾りたてる時でもある。
婚礼の日などは逆に、普段着、ほとんど野良着みたいなので進行するものだそうだ。
さて本日ホキとなる老婆はさすがの衣装である。
綺羅らかに染めた糸を幾色も組み込んだ飾り紐を、さらに折り合わせた羽織もの。
色彩の混沌である。故に明暗の原始でもあると自分は感じた。
「ホキになった女性はもはや自分でどんなことも行いません。
全て、家族のものがおこないます。ホキは家族にたいへん大事にされます。そしてホキは家族に、たいへん深いあいを示すのです。」
家族達は毎朝一番にホキを詣でる。そして身支度をさせたり食事を採らせたり(その担当には何となく決まりがありそうだが、自分にはよく分からなかった)しながら、ホキの体に触れて感謝と祈願の言葉を囁く。
するとホキ自身も彼ら一人ひとりの手を取って、案じるな、心得たと言う意味の言葉を返すのだと言う。
ホキは例外なく数年で亡くなるそうだ。高齢だから当然かもしれない。
ホキが死ぬと家族は大いに嘆き、哀しみ、別離の苦痛を噛み締め遭うのだと言う。そしてまた盛大な葬儀が行われる。
自分が思うに、
ホキとは家族達の悪運祓いに遣われているのではないか。
数年で逝去されるのは、つまりそういう訳ではないかと。
昔から無病息災を願って人形を焼いたり壺を壊したりしたみたいに、家族は自分の病みをホキになすりつける。不遇の肩代わり。
だからこそみんなホキを大切にして、亡くなることを哀しむのだろう。自分の不運を、代わりに背負った人物だから。
ちなみにホキより若い家族がにわかに死ぬと、当世のホキは
「役立たず」
だから谷に棄てるんだそうだ。