小説「スーパースターが居なくて幸せな世界」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ウェーブ。電波、情報を乗せるもの。
ウェーバー。ウェーブに乗せる情報を造り出すひとたち。古い言葉だとマスコミ。
それで、もうずっと以前からみんな気付いてはいたんだけど、いくらなんでも眼に余る。いい加減何とかしよう。
そんな世論になったので、22世紀になるちょっと前ウェーバーは一網打尽にされた。罪状“国家反逆罪”。もっとも最初は取り敢えず、の逮捕だったけど。
言論の自由があるから長い間公権はそこに入り込むことが出来なかった。しかしマスコミは嘘をつく。特に21世紀を過ぎてからその度合いが酷くなった。もちろん背景に所謂国家的事情もあった。
大反発が起きてデモやらテロやら便乗やひやかしや賑やかしや。ありとあらゆる苦難を乗り越えて2997年、
“ウェーブ革命”
断行された。蛇口を捻りっぱなしみたいに、情報が駄々漏れの時代は終わったのだった。
つまりみんなが一つのシンボルに熱狂する文化が消滅したのである。
権利を持つ全ての国民は毎年定額料金を納付してウェーブに接続する。
そして自分の欲しいコンテンツにのみ接続する。

今我々は自分の知りたいことだけを知り、知りたくないことを避けることが赦された。
“一つにならなくてもいい世界”。
最初からゆるされるならそもそも喧嘩する必要がない。
ウェーブ版の小さな村の成立である。賛同し会えるもの達だけのささやかな共同体。
かつて白樺派が似たようなことにトライしたけれど、メンテナンスの面で比べたら利便性の違いが明らかだ。
今、大勢で一人のスーパースターを崇める必要はない。スーパースターを崇めないひとを、誰も責めたりしないから。
幸福はそれぞれの体内にだけ宿っていて、
だから誰も外を歩かなくなったのだった。