小説「竹林物語」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

竹やぶの中を歩いていた自分に、へんなものが話掛けてきた。
へんなもの。
どんなにへんか、描写が難しい。
取り敢えず人の形。しかしなに人なのかなに時代の格好なのか、知る術なし。
そして異様に小さかった。
「もし、其処な方。わたしを連れ帰ってくださらんか。」
謎の小さいものはこう訴える。
「わたしはうつろに宿る福寿の憑き神、うつろ姫です。
わたしを其方の住居に連れ帰ってくださらんか。」
「なんだって?なんだってあんたを俺の家に?」
自分は逆に、その小さいものに聞き返した。
「わたしたちはうつろから産み落とされる福寿の伝え手です。
中でも、わたしは竹のうつろなので、言ってはなんだが別嬪です。
なのにここ数百年とこの竹林を詣でたものとてない。
別嬪であるわたしが何年も捨て置かれるむなしさよ。どうぞわたしを其処方の住居に連れ帰ってくだされや。必ず福寿を為しましょうぞ。」
自分はしばらく迷った。
何を迷ったのか、自分の考えていることが実現するかどうか。
自分が迷っている間、小さいものは小さい両手をもみ合わせ、小さい眸に愛想の光を灯らせて、自分が応えるのを早よはよと待っている気配。
そして自分は、よし、と決意して、小さいものを地面から掴み上げると、
手近な孟宗の幹に押し付けた。
そして思った通りになった。
小さいものは、何ごとか叫びながら孟宗の緑色の中に吸い込まれて消えた。
竹やぶの地面は枯れ葉でふかふかしていて、見上げるとでえでえしなる青い枝が、海底から見る水草そっくりだった。
全く、どんな所に来てもキャッチセールスと言うのがいるもんだ。
自分は深い息を着いて先に進む。
人が押し付けてくる幸せに自分はほとほとうんざりしているのだった。。