小説「ねずみの問屋さん」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

森に住むねずみの家族のおうちに、
街ねずみの問屋さんがやってきました。
「毎度お世話になっております。。問屋です。ご今月の首尾はいかがでございましょう。」
と問屋ねずみさんは森ねずみさんの玄関で丁寧にお辞儀しました。
「ああ、はい。問屋さん。ぼちぼちきんさるかなあと思っとりましたよ。今日は何があるですかな?」
出てきたのは森ねずみのお母さんです。
「そうですな。さしずめ良いのは石鹸ですね。水に溶けずに持ちがよい。それとろうそくにお料理の油、チーズとバターも持ってきておりますよ。」
「お米や麦はありませんかな?」
森ねずみのお母さんがこう言うと、問屋ねずみさんは困ったようにお耳をふりふり言いました。
「最近はいけませんな。米も麦も作る所が少なくなっとります。以前と比べるなら格段仕入れづらくなっております。申し訳ない。
撞いてない米でしたら今度少しくらいはお持ちできますけど、麦になりましたらふくろう便をおつかいにならない、とこの辺りではたいへん難しい。」
「街の様子は最近どんなです?」
森ねずみのお母さんは尋ねました。
「良くないですな。ひとの数がどんどん減っておりますから。田んぼも畑も減る一方です。ものの作りようがない。いっそ森の方に移って見ようかななんて話もよく聞きますね。」
「こちらもなんやかな不便は不便だのに。」
森ねずみのお母さんは笑いながら
ちょっと待っといてくださいな
と言って一旦おうちの中に消えました。
そしてしばらくして
「今は、これだけあるですけど。」
と籠を二つと大きな袋をよいしょよいしょ運んで来ました。
「茸とこごみの干したの。それからどんぐりを乾かして、刻みと轢きにしときましたけど。」
「ああ、ああ、どんぐりはいいですな。何しろ米が採れませんからね。昔からのこういったものが、また人気でございますよ。」
そう言うと問屋ねずみさんは籠と袋の中身をまずはざっと、それからつぶさに確かめて、
「では石鹸を5個にロウソクを3束。それに油とチーズを少しお付けいたしましょう。
来月は米の他にご入り用が?」
「では上のこが大きくなりましたで服を新ししますから、きれと糸を。」
問屋ねずみさんはぽっけから出した帳面にさらさらっと書き付けると、
「はい、確かに承りました。毎度ありがとうございます。今後ともごひいきに。」
とおじきをぺこり。
荷物をたくさん積んだ荷車を牽いて、よいしょよいしょと歩いていくのでした。