「美術館の券もらってたんだけど、
期限切れるしお母さんいけんし、あんたにあげるわ。」
とお母さんが言うので、高校に入って最初の連休に私は同じクラスの小湖を誘って市立美術館のドールハウス展を見に行った。
「ドールハウスってなに、りかちゃん人形の、あれみたいな感じかな。」
「わたしはね、シルバニア派。りかちゃんは持ってなかったの。
シルバニアの家具とかの方がけっこうかわいいのよ。」
と招待券をもぎりのおねえさんに切ってもらいながら、小湖が言った。
ドールハウスが人形の家、を意味するの私たちのとぼしい英語力でも想像できたんだけど、
ガラス板の向こう側にずらずら並んでいるものの実態は、
それとはちょっとちがうみたい。
「へえ、ドールハウスって、人形が住んでる家なんじゃなくて、人形が使うのに丁度いいくらいちっちゃな家ってことなのね。」
パネル解説を読んだ小湖が普通にそう言った。
と、さっきまでスチール椅子に座っていた小母さんが
待ってました
みたいに近づいてきて、おしずかに、と、まさしく小さな声で言うから私達はガムテで閉じられたみたいに萎縮する。
確かに、展示してあるお家はちっちゃなちっちゃなものだった。
台所だったり、応接間だったり、お風呂場だったり。
あるいは農作物の収納小屋だったり、小さなお惣菜やさんだったり、実際にあるというお侍さんちを忠実にかたどったものなどなど。
あらかた見てしまうのは本当にすぐで、私と小湖はロビー横の自販機でアイスクリームを買って齧りながら、もはやどうどうと感想を言い合った。
「ねえ、ああいうちいさい家を作るのって、それを仕事にしてる人が居るのかな。」
私は友達に聞いた。
「そうなんじゃない?」
小湖はなんとなく違うことを考えているみたいで、いつものパー、な感じが目から抜けて私はどきっとする。
「でも結構場所とるでしょ?展示が終わったらどうするんだろう。」
「たぶん、あれよ、パーツに分解して紙に包んだりして、別々に仕舞っとくのよ。」
ふうん。私は自分で聞いたよりも、小湖が考えていそうなことのほうが気になる。
「ねえ、屋根裏部屋に本がぎっしり置いてあるやつ、あったね。」
小湖は急にきらきらした目で私を見る。
「そんなのあったけ。」
あったのよ、と彼女は力強く言った。
「私、小学生の時似たようなの造ってたのよ。」
と小湖は話した。
彼女んちの近所にかなりすき放題させてくれる児童館みたいなところがあって、優しいお姉さんがいつも居て、本をたくさん読ませてくれたんだという。
ほんとになんでもやらせてくれる場所で、
小湖はそこに自分だけの“場所”を創造したのだ。
そう、それはまさに、創造。世界。空間、いっそ宇宙、
小湖の作り出した宇宙。
小湖の大好きな本と大きなクマのぬいぐるみ、たくさん絵を描いて、看板にして、
小湖はこの場所に小湖による一つの世界を作り出した。
本当に本当に、小湖による、小湖のための
「空間だったの。」
と小湖は言った。
「なんだか帰りたくなったのよ。」
私と同じに小湖はもう高校に入ったので、今更児童館に行って見るのはかなり気が引けるんだと、普段遠慮のかけらも無い彼女にしては清楚なことを言うのだった。