日曜日の朝は思う様寝ていたい。
いつもは思う様寝ている。
でも今日に限って普段は一人でサバイバルしている娘が、
わあわあきゃあきゃあ言っててこでも起こしにかかるので、
めんどくさくて起きてしまった。寒い。布団からでてしな震え上がる。
彼女が何に興奮しているのかと言うと、玄関の外が一面雪になっていた。
昨日の夜を全部使って音もなく降ったらしい。
娘はとにかく外に出たくて出たくてひどい騒ぎである。
私はレンジで牛乳を温めて、昨日食べ残したとんかつの
ひえっひえなのを摘んだりタクアンのあとちょっとをポリポリする傍ら、
うるっさい娘を半ばしかりつつ、入念に厚着をさせた。
彼女の長靴は中綿で、口のところに縫い付けた布を
紐できゅっと絞ることが出来るのだが、
どんなことがおきてもいいように私はその上から
レッグウォーマーで雪と冷気の入り口を完全に封じ込める。
靴を履くのは外にでてもよしの合図とほぼ同じなので、
矢のように玄関から飛び出していった彼女の後を、
一番分厚いコートの襟元をしっかりと留めて、私は追いかける。
この空気のなんて澄んでいることか!
私の温かく縮んでいた肺に、勢いよく取り込まれる。
もともと田舎だから喘息の子どもの宿泊施設があるくらい
外気が清涼なんだけど、それにしたって今日は格別だ。
巨大な絹ごし豆腐みたいに何の疵も無い雪の上を、
とって置きの生醤油垂らすみたいに娘が飛び跳ねとびはね進んでいく。
私はその取り返し付かなさに、人間の行う最も軽微な犯罪の
見張りをしているような気持ちになる。
お宮の公園に続く道の途上にあった娘が、
突然立ち止まって瞬時に固まってしまった。
しばらく雪のうえの「それ」をじっと見ていたみたいだけど、
ついに感極まって私を呼ぶ。
フライパンに引いた最初の油みたいに盛んに跳ねている。
私はのんびりと追いついていく。それが彼女には不服そうだ。
彼女は喜んでいるのかびっくりしたのか、ちょっと分からない声で
下を指差す。
妙な足跡がずっと森の木立の間に続いていた。
細い足跡だった。指なのか爪みたいなのか、3本だけある。
鳥にしてはずいぶん大きい。
3本指の足跡は、ちょこちょこと小股で歩いて、お宮の森の奥へ奥へと
何処までも入っていったようだった。
娘はそれが、どんぐりの入った袋を担いで歩く「あれ」
の足跡と信じきって、驚きと興奮でほっぺたを真っ赤にしている。
私は、たぶん大きめのカラスじゃないかなあ、
と思ったけど、言わないでおく。
そして彼女の鼻の下にすーっと付いているきらきらするのを、
ハンカチだしてごしごしぬぐった。