小説「氷事件勃発の日」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

子どものころ村の道は悪かった。
アスファルトの舗装が荒くって、しょっ中あちこちにくぼみが出来ていた。
その度に業者が工事しにくるんだけど、もともと田んぼだったところに
むりやり道をつけているんだから地盤が悪くてどうしようもない。
いたちごっこみたいに直してもなおしてもへっこむのだった。
冬の朝、そういうへっこみには薄い氷が張る。
学校に行くみちみち私や友達らは競ってその硬くてぺらい氷を
踏んで、割ろうとして遊んだんだが、
今大人になって、水溜りにあの朝みたいな薄い氷が張っているのを見ると、
私はしぼむというのか酸っぱくなるというのか
どうにもなんとも言いがたい、大事件が起きた時のことを思い出すのだ。
今期最初の寒波が降って来た次の朝だから、あんまりにも寒かった。
私達はどのこもどのこも通常の倍は着重ねてもこもこしながら、
止まってられないほど寒くてほとんど駆け足で学校に向かっていた。
「あ、氷!」
誰かが見つけると、
「いえーーっ!」
と言いながらすぐさま群がって、まるで一番に踏み割った奴がチャンピオンみたいに、
はしゃぎながら氷を壊し、学校へ向かっていた。
よっちゃんは一番先頭を走っていて、
「お、見つけたぞ!」
と言った時には私たち他の子は落ち葉についたもけもけの霜に見とれていたから、
もう誰も追いつけなかったのだ。
ちくしょうずりいぞ、と誰かが言った。
よっちゃんはダッシュして水溜りに近づいてそのままの勢いで氷を踏もうとして、
足を滑らしてそのままのスピードで後ろに勢いよく倒れたのだ。
ごちーん、と、音はしなかったかもしれないけど、そんな音がしそうなくらい
見事に頭を地面にぶっつけて、そのままことりとも動かなかった。
私達は何が起きたのか分からなかった。
気絶した人なんか見たこと無かったし、実際よっちゃんは脳震盪起して延びているだけだったのだが、
私たちにはとにかく、
そういうふう、
にしか見えなくて、でもだったらどうしたらいいのか分からなくて、みんな凍りついていたんだけど
とうとう一番のおっちょこちょいの小坂君が
「よっちゃんがしんだ!!」
と言ってしまい、それがスイッチになってパニックが始まった。
よっちゃんがしんだーよっちゃんがしんだー!
と言いながらその場に居た5人ほどが一斉にわあわあ泣き出した。
もとが田んぼだったところに作ったような道だから、車なんか全然通らなくて
邪魔になることが無かったのは幸いだ。
5人もの子どもがわけも分からずに大パニック起してぎゃあぎゃあ泣いているんだから
近所の家のおじさんがすぐさま何事かと飛び出してきてくれた。
おじさんはどうしたどうして、と言って私たち一人ひとりを宥めながら、
道に延びているよっちゃんを見ると、
大丈夫だ、大丈夫だ、と言ってよっちゃんの呼吸をたしかめたり脈を確かめたり(多分)、
家の中からタオルや毛布を持ってきてよっちゃんに掛けてやったり、
急救車呼んだり学校に連絡したり、そういうしてたら担任の先生と保健室の先生と体育の先生が
でかいワゴン車に乗って馳せつけて、
だいじょうぶよだいじょうぶよ
と言いながら顔中びやびやになった私たちを車に乗せて学校に連れて行ってくれた。
よっちゃんは念のためということで2日病院に泊まったんだけど、
毛糸の帽子を被っていたのが良かったとかで3日目からは普通に学校に来たのだった。
そして私達は3日目にしてやっとこっぴどく怒られたのだった。
あの時、
見ず知らずの子どもなのに必死で働いてくれた近所のおじさん、
ともかく叱らずに慰めてくれた保健室の先生。
私の住む街の半径100キロ、何処探しても、そんなひと居やしない。
私は老けたし子どもは生まれなくなった。
そう思うと、どうしてか鼻の奥にか喉の奥にか
すこんと穴が空いた様な気持ちになるのでした。

よその方からいただいたインスピレーションを、
再創作して打ち返す、
キャッチボール創作と呼んでおります。
今回はゆゆさんのこちらから↓
クリスマスおめでとう

もりもと作もだれか打ち返してくださったら、
しあわせです。