小説「世界の王」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

あと20時間で期限の日が来る。
20時間後、午前0時を刻んだ時、自分は世界を終わらせる。
どうやら自分が期待していたようにことは運ばなかったみたいである。
というか、案外人々はこのプランの発案者の方に支持を顕している、と言うことなのかもしれない。
今ある世界を支持している人が多かったということか。
ともかくももうじき世界は終わってしまう。
あと20時間以内に「答え」にたどり着る者が現れるか、あるいは
こんなことは赦されない
と思い直すものが出るか否か。
もっとも自分は正解が出なかったら何をするのか
そこを明確にしていないんだから、このゲームはずるといえばずるいのだが。
黙っていること、知らないふりをすることは確かに平和に繋がる。
しかしその影で「なかったこと」にされた国や家族のことを「なかったこと」で終わらせないために、
沈黙をこじ開けるために自分はある問いを発した。
世界に向かって。
あなたも受け取ったかもしれないこんななぞなぞである。
『問い:世界の中心を定義せよ。
世界の中心には黄金と玉石に富む世界の王が居て、 
人々がよく従うとき王は永遠に世界をおさめる。』

ネットワーキングの力で何億人という人達にこのメッセージを伝えることは容易だった。
自分は現実的にはどこにも存在していないことになっている。
しかし、自分ではない「私」であるなら、この地上にあるどんなサーバーの中に(なんなら海底にだって)
いつまでも生存しつづけることが可能だ。
コミュニケーションのためのネットワークシステムは、一匹の烏賊が生涯で産み落とす玉子よりは多く稼動している。
一つのネットワークを越えて別のネットとコミュニケーションすることは、理論上不可能だ。
だがそれは「不可能にするための理論」ということなのであって、
「可能にするにはどうすればいいか」という立場から構想するなら、別の理論はいくらでも生み出すことが出来る。
自分はそんなふうにして、綺羅星のように明滅するネットワークの一つ一つに対して
「問い」を拡散させた。
それなりに話題を呼んだようである。
だがみんな検討はずれなことばかり考えるのだ。
あるものは「ベツレヘム」と応えた。あるものは「バチカン」と応えた。
またあるものは「マンハッタン」、あるいは「西安」、でなければいっそ「地核のさらに中心」
あるいは「黄金」「玉石」という言葉から派生して
ロマノフ王家の埋蔵金やムガル皇帝の遺産、中東王国の隠し口座などなど
トレジャーハンティングのネタ探しに精を出した一群もあった。
そして多くは、先に挙げた様におそらくそ知らぬ顔で沈黙している。
あと20時間。
期限が切れてしまえばどうも自分の勝ちのようだ。
システムは現状安全率が9割水準を推移し続けている。大きなトラブルは起きていない。
決行の5秒前までならどんなウィルスで来られても駆除できる準備を整えている。
自分が5秒でシステムを復旧出来ない程度のウィルスを作る技術は
ネットワークの何処にも確認されなかった。
20時間過ぎてしまえば自分は「世界の王」を
「起す」ことが出来る。誰にも邪魔できない。
なぞなぞの答えはとても単純だ。
『世界の中心』は、世界で一番多くの人の関心を集めることが出来る話題。
『黄金』は、昔から最高の知識の隠喩。
『玉石』は、永遠に変化しない物質。腐ったり劣化したりしない永遠性の象徴。
つまり今世紀最大の知識で作られた永久不変の物質が、
世界中の人の注目を集めるとしたら、それは核攻撃システム。
2020年代から少しずつ時間をかけて準備された、
北アメリカ大陸から世界主要都市を24時間体勢でロックし続ける
核のミサイル基地のことなのだ。多くの人が、その存在をうっすらと認識しながら、
沈黙を続けている。
「世界の王」は行使されることのないシステムだ。
「王」はただそこにいればいい。
だが人々は常に「王の存在」を意識している必要がある。
銃口が常にこっちを向いている、しかしそれを知っていたなら、
向いているだけの状態にいつまでも維持することが出来る
そういう恒久平和のためのプランなのだ。
史上最強のこけおどし、且つ最凶の使わない武器なのだ。
だから自分はそれを「起す」ことにした。
20時間以内に
「そんな平和は間違いだ」
と声を上げる誰かが現れないなら、自分はシステムをオンにするだろう。
1000万人級の都市から順にミサイルが発射される。

経済と産業の要衝はすべて破壊する。
だって顕かに間違っているだろうこんな平和は。
20時間。
20時間の後に、自分は世界を終わらせる。


よその方から頂いたインスピレーションを
再創作して打ち返す、
キャッチボール創作、今回は月冴さん↓
星を視るもの
より。テーマは「地球最後の瞬間を一人称で書く」
です。難しかったです。