小説「夏には咲かぬ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「桜なんて年中咲くんですよ、ほんとは。」
と言った後で古典の先生は、
「や、夏は咲かないんだけどね。」
と言い足した。源氏物語の宇治の辺を今習っていて、
「花と出てきたら全部桜だと思いなさい。」
と先生は言う。それ以外の花はまずないんだと言う。
しかし、漫画で読んだ限り源公が梅に対し
「香りがあるので桜よりいい。」
と褒めていたと思うのだが、事実であるなら少なくとも梅はあったはずなんだけどな。
とにかくそれだけどこにでも、いつでも咲いていたような花なのだろう、
桜と分類される花の木は。
桜が春で定着したのは、近代以降堤防を補強する目的で
川沿いにソメイヨシノをうじゃうじゃ植えだしたからだとかなんとか。
ソメイヨシノはどっかの国との友好関係の証にもらったんだかあげたんだか。
とにかく今となっては今この瞬間人知れず山奥で咲いている地味なサクラ目の木に
注意を払う人は居ないってことだろう。私も遠足とかのときに、それと知らずに
咲いている花を見逃しているんだろう。
でも、一つ気になる。どうして夏は咲かないんだろう。
夏に咲く桜は無い。
「さくら」という語自体が「咲くだ。」みたいなものなのに、
何が咲いても夏のそれはサクラじゃないのね。
気温の関係でしょうか。
暑いのが、嫌いなのでしょうか。
確かに私も夏のたんびにろくなことがない。ろくなことがないんだからもう懲りていいのに
どういうわけか夏には
「何かしなくてはならない、
否、何かする義務がある。」
という空気に支配されてしまい、ついつい痛い目見に街に出てしまったりするのだ。
山の中に居なさい、ということなんだろうか。日本原人は山岳民族だから? 大胆な仮説。
人の目から隠れていなさい、ということなんだろうか。
誰の目に留まらなくても自分が咲いていることそれ自体を楽しみなさい、
ということだろうか。
うーんなんだかとても、日本人。
私は今はまだ、日本人になる度胸は、無い。