小説「サンタが居た!」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

小学校2年の時、3学期の始業式の日のことだった。
自分の教室にひさしぶりに入ったら、ゆっくんの席がざわざわしていた。
ゆっくんの席はおれの席のうしろだったから、おれはどうしたのかすぐ聞いた。
「ゆっくんちにサンタがきたんだって!」
と横山君が興奮して言うのだ。おれはすぐに、ああまたそういう話ね。と思う。
「ほんとだって。ほんとにサンタが来たんだよ!」
ゆっくんは熱弁をふるう。
すでに、それはお父さんなんじゃないのか
という反論には打ち勝っているみたいだった。
「ほんとか? ほんとにお父さんとかじゃなかったのか?」
おれが訊くとゆっくんと、ゆっくん信奉者たちが力強く頷いた。
つまり、ゆっくんのお父さんはその前日から出張に出かけていて、26日まで家に居なかったのだ。
ゆっくんがサンタを目撃したのは24日の夜。
九時に寝かされて、一度眠ってなんとなく目を覚ましてしまった時、
ゆっくんの部屋の戸が音もなく開いて、サンタが入ってきたというのだ。
ゆっくんは寝たふりしてたんだけど、うすーくまぶたを開いてそのサンタを
「がん見」しないわけにはいかなかったんだと。
「どんなサンタだったんだよ。」
と訊いてみたら、なんだかちょっと、へんだったのだ。
おれは、というかおれたちはサンタというと、保育園のクリスマス会で来てくれたサンタさんを思い浮かべる。
赤い帽子と赤い服とズボンと、黒い長靴を履いていて、
髭面で大きな白い袋を持っている。
しかしゆっくん宅に出没したサンタはそれとはちょっと違っていたらしい。
まず帽子。赤いんだけど、おれ達が思ってたみたいな三角形でさきっちょに白いぽんぽんがついてるんじゃなくて
ベレー帽みたいな生地であたまにペタンと乗っていて、ふちだけ白かったんだと。
そしてズボン。赤くなかった。
「トナカイの毛皮っぽかった!」
とゆっくんの証言。服にしても、長いコートだったというのだ。
そして決定打になったのが顔。これはもう
「ぜったいにお父さんじゃなかった!」
とゆっくんは言って譲らなかった。
「だってがいじんだったんだもん!」
ゆっくんちに出没したサンタは、髭こそ生えていたけど顔全部もじゃもじゃなんじゃなくて
鼻のしたにしか生えていなかったんだそうだ。
そしてその顔が、目がくぼんでることといい鼻がでかいことといい、
どうみても日本人じゃなかったんだと。
以上のようなことがあって、その後数年ほどおれたちの周辺で
「サンタが居た!」
という事実が大きなニュースとして毎日を波立たせたのだった。

たねあかし。
その頃おれの住んでいたあたりに、大学の先生をしていて退職した
イギリス人のおじいさんが引っ越してきた。
ボランティアで近所の主婦とかに英語を教えているうちに、
クリスマスのサプライズに一役買うことになったんだと。
たねあかししたらそういうことなのだ。
でも、あの2年生の一月の教室で、おれやゆっくんやほか何人かの間で、
「サンタは居た。」
それでいい。
そういうことでいい。
だっておれのこどものころしあわせだったんだなあ
って、今思えるから。だからそれでいいんだ。
おれは今でもそう思っている。