小説「出さな手紙、誰に対しても」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

命が細くなったのかもしれません。自分が今まで誰かに生かされていただけなのだと
最近よく考えます。
肉体は自動機械みたいなもんでした。
私は生きてきた時間の半分を、死んだように眠って過ごしたのです。
私はそういう人間でした。
あくまで例えならば、私は生きてきた時間の半分を様々の機械ででっち上げられて
無理やり生きていることになっていたのだろうと思います。
私一人を生かそうとしたその意思の重いことには。
私は命が細くなったのでようやくそのことを在り難がって見る気持ちに近づいています。
私はそんなふうに様々のヒトの好意に依って維持されながら、
そのもろもろすべてのことをなべて厭うてただそこにあった、
まったく手に負えない生き物を今やっています。
で、あるのにどう言う訳か、私は起き上がったようです。
人工呼吸器に繋がれて、ざら目な夢ばかり見ていたんです。そうして生きていたんです。
ですけどどうも私は起き上がったようです。
彼が願って留めていた願いのままに、私は私が生きていくに中って欠かせないなんらかのことを、ものを、
まんまと取り戻したようなんです。
あなたを原因とか要因とか言いません。言って往けないという最低限の知能があったのが幸いです。
まったくぎりぎりの人間性なので呆れ返ります。
私は取り止めた情けない命の総体をかけて
あなたという全き偶然を心から「因果」と申し上げます。
あなたが私の因果です。なんの因果か、という、あれです。
なんの因果か私はどうも留められたみたいです。
そしてなんの因果かそのために、私は私を留めようとしたもろもろの努力の
尊さを統りました。
そのために、ただただに、あなたを私の因果と申しあがめます。
これで私はみすみすと、もうあと何十年か生きることになりましたから。


出しもしない手紙なのだ。