私達はラーメンを注文した。
ウェイトレスの女の子は淀みなく頼んだものを復唱して、少々お待ちください、と言って去った。
「おれ、すべての女性は人柱なんじゃないかと思ったんだ、結局。」
私は自分が注文した味噌ラーメンのことを思い描いていたので、吉尾の言ったことがうまく聞き取れなかった。
「なんだって? 」
今日は奮発して、煮卵追加でキムチを乗せたの。
「うん、だから女のひとはモノっていうのは結局そういうことじゃないかと思ってさ。」
「差別的発言? 」
「いや。ああだめだ。おれこれから思ったままに喋るから。ま、BGMということで。へたな講談でも聞いてるきになっててよ。」
BGMならさっきからそこのテレビで卓球の試合流しているけどな。なんだろう、これは。国体?
「言葉って神様のものだと思うんだよね。」
吉尾は本当に思ったまま話しているようだ。
私はテーブルの付属品、ラー油とかお酢の小瓶に隠れて、『ポイントカード一枚で唐揚げ小皿無料! 』と書かれている札があるのを見る。
「人柱っていったいなんのためにやるのか、自分なりにちょっと考えてた。」
「お城とかが壊れないように、おまじないで人を埋めるんでしょ? 」
考えただけでちびりそうな昔のおそろしい風習。
「うん、だからね。なんで人を埋めるとお城が壊れないかということなのね。」
「何かが呪いで障りをしているんでしょう。」
「うん、その、呪いの入れ物になっていただくということじゃないかなと。」
「なんですかそれは。」
台の手前で戦っている彼女の強烈なスマッシュが決まった。サーッ!! と、言ったかどうかは、周囲がうるさいのでまったく分からない。
「身代わり。というか依り代。うん、ちっとも今の言葉じゃないから入れ物ってほうがしっくりくる。だからその障りをしているナニガシカがさ、自分の思いを知ってほしい、受け止めて欲しいと思うから、石垣崩したりするんでしょ。でもそれだと困るわけで。
石垣を壊さないでください。そのかわりにそちらの言い分に対しては受け止めるモノを用意しますから。そういうことじゃないかなあ。もちろんちゃんと勉強したわけじゃないし、違う意見の人も多いと思うんだが。」
吉尾は話しながら頼んだものが気になるのか(こいつは塩餡かけ堅焼きソバ)、厨房で鍋を振っている大将をちらっと見る。
「でね、呪術というか魔法というのは、よその地域はどうか知らないけどこの辺の場合言語を現象に替えることじゃないかと思うんだ。というか、昔の人は言語から現象が発生するんだと考えていた、と、おれは個人的に思う。
ハジメニコトバアリキ、じゃないんだけど。とにかく神様が言語を使う。神様が使った言語は現象になる。そこまで分かった。そこまでは分かるから、人も言語を覚えて自分たちの思うように現象が成り立ってくれるように願う。で、祭りや呪いを行う。
でも所詮人は神様みたいに鮮やかに言語を使えないからさ。というかそれは当然。言語は向こう側の原理で向こう側は神様の原理が通用してるから、当然だよね。でもこっち側は物質の原理があって、人は物質の原理に追随してしかなにも出来ない。
そこで、入れ物としての女の人の必要が生まれたんじゃないかなあ、と。人柱の風習まで発展する根拠として。」
「なんで女の人が必要になるの? 」
なんとなくただ聞いていても詰まらないから、問い返してみた。
「わら人形とかお札の発想と一緒だよ。言語で表現することはストーリーだから。願い事もストーリーだから。祈る言葉を組むことでストーリーを作るわけね。でもそれだけじゃ物理的になんの影響も与えない。言語世界から物理世界へのジャンクションとして、人形やお札に媒介としての意味を与える。ストーリーの体現者になってもらうんだ。人形は物理の存在だから、物理的存在が言語のストーリーを帯びることで、言語は物理的に左様することが可能な状態に改善される。」
訳が分からない。
「それでね。そういう願い事、ストーリーを全部、女の人が押し付けられてたってことじゃないのかと思うんだ。
等身大のわら人形ってことだよ。女の人のほうがストーリーに入り込みやすいだろ?
国がこうであるように、家族がこうであるように、いいことがあるように、悪いことが無いようにってね。そういうけっこう勝手なストーリーを体の中に入れ込んだまま、女の人は鎮まっている。ちょっと前まで女の人にやれ勝手に外出するな、やれ好き勝手するなっていうのは、呪いの入れ物が勝手なことされたら困るってことじゃなかったのかな。」
「吉尾。」
私は尋ねた。
「うん? 」
「いっつもそんなこと考えてるの? 」
吉尾は一瞬ひょん、とした。目と目の間に衝撃をくらったような顔をした。そして、
「うん。」
と悲しそうに言った。
「だから友達いないの? 」
「うん。」
吉尾はうなだれて口を閉ざした。
窮