小説「石の刃」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「お前は凶器だ。しかしいかにして人を殺すかは分からない。」

 昔父が言った。

「剃刀ではない。そこまで潔くはない。包丁というわけでもない。そんなに泰然と構えていないだろう。ならばのこぎりはどうかというと、これも何か違うように思う。かと言って鈍器かと疑うと、これも分からない。レンガか金槌か、あるいは棍棒か。人を殴り殺すのともなにか違う気がする。

 しかしてお前は凶器だ。

 人を殺すように生まれてきた人間だ。」

 父がそう言った。

 実際十代の私は自分の中の生きる力をまったくもてあましていた。人を殺したわけじゃないが人を生かすようなこともしなかった。

 私は目の前にあるすべてのものと自分との距離感が壊滅的に掴めなくて、近づきすぎて破壊するか、興味がなくて全く近づかないかどっちかでしかなかった。まあそれでよかったのかもしれない。もう少しアタマが悪かったら本当に人を殺していたかもしれない。

 父が私を凶器と言ったのは、あくまで物理的なことではないだろう。

 しかし私は確かになんらかの人達を駄目にした。肉体を駄目にすることがなかったならきっと精神を駄目にしたんだろう。その証拠に父が死んだ。この場合精神的に。

 最近私は思うんだけど、私の本質が凶器であるなら、それはきっと石のナイフではないだろうか。

 その辺の石をぶつけ合って刃こぼれさせて、無理やり造ったでっちあげ武器。

 人を殺したい意思はあるんだけど知識や技術がいっかなおいついていなかった黎明の凶器。

 きっと私はどうしたらいいのかわかっていなかったのだ。これはきっとラッキーなことだったろう。

 もう少しアタマが良かったら、私は必ず人を殺していたはずだ。