4thアルバム『ウィズ・ベスト・フレンズ』のB面トップを飾る、岩崎宏美屈指の名曲。古くからの宏美ファンなら、決して忘れることのできない歌であろう。作詞:阿久悠、作曲:三木たかし、編曲:田辺信一。人生で最初で最後、結婚を許してくれない父親にそむいて彼との愛を取る、という苦渋の決断をする若き乙女の気持ちを歌い上げた楽曲である。

 

 宏美さんのオリジナルで類似した内容を持つ楽曲と言うと、「春おぼろ」「名前のない花」がすぐに思い浮かぶ。「春おぼろ」は「パパにそむいて」と同様、結婚を望みながら父親に認められない苦悩を歌う。「名前のない花」の方は、具体的には語られないが、2人の恋愛は祝福されず駆け落ちに走る歌である。

 

 イントロでオーボエ(イングリッシュホルン?)が2度同じモチーフを静かに奏でると、3回目はそれをフルバンドが繰り返し、華々しく曲がスタートする。曲の構成は至ってシンプル。AメロとサビしかないAA’BB’×2+B’。Aメロはすげない父親の言葉を反芻するところから始まる。そしてサビでは、「♪ いいえ私〜」と父親の言葉を否定するところから入り、主人公の固い決意を歌い上げるのである。バックはストリングスやトランペットなどが壮大に盛り上げる。

 

 

 「パパにそむいて」が心に沁みるのは、もちろん三木先生のドラマティックなメロディーメイク、田辺さんのスケールの大きなアレンジ、そして若き日の宏美さんの音域いっぱいに使った伸びやかな歌い上げに拠るところも大であろう。だがそれに併せて、いや或いはそれ以上に、2番の阿久先生の詞が私を泣かせるのだ。この曲の歌詞にあって、先に挙げた「春おぼろ」「名前のない花」の2曲にないものーーー。それは、主人公の父親に対する溢れんばかりの愛情である。

 

♪ きっとパパは 今頃ひとり
 

 パイプ煙草 くゆらせながら
 

 夏の光 あふれる窓に


 立っていることでしょう

 

 自分たちの結婚ににべもなく反対されながら、寂しげなパパの姿に想いを馳せる娘の心持ちに、泣かされるのである。そして、大好きなパパに一生に一度だけそむいて、彼との愛に生きる。その健気な決心に涙が止まらない。しかも、私(や多くの男性ファン)も年を重ね、娘がいつ嫁いでもおかしくない年齢になった。それ故、昔はヒロインの父を想う気持ちに泣けたのだが、今は父親本人の気持ちも痛いほどわかるのである。

 

 

 この歌は、ちょっと検索しただけでファンの方のブログがいくつもヒットする。それだけの人気曲なのに、これまで意外にもベスト盤やライブ盤にほとんど取り上げられていないのである(『30TH ANNIVERSARY BOX』が唯一だと思われる)。だが、私は幸運なことに1984年夏のツアーで、この「パパにそむいて」を聴いている。

 

 そして、ファン歴の長い皆さんなら、1978年10月のNHK『ビッグショー 岩崎宏美 十九才と別れる秋に』に於けるこの曲の涙の熱唱をご記憶なのではないか。この時には俳優の小林桂樹さんがゲストで見えていた。トークコーナーの最後に、宏美さんと近い年齢の娘さんを持つ小林さんから、宏美さんにメッセージが伝えられた。その時から、宏美さんは感極まった様子だった。そしてステージのクライマックスが近づき、「パパにそむいて」の曲紹介で、自分にそう言う時が来た時を想像してお父様のことを話す宏美さんは、今にも泣き出しそうだった。その直後の歌唱を是非ご覧ください。

 

 

 思えば小林桂樹さんも宏美さんのお父様も、すでに鬼籍に入られて久しい。宏美さんの愛犬・ライスくんも天に召された、と昨日宏美さんのSNSで報告があった。宏美ファンは皆心を傷めている。だが宏美さんによると、ライスくんは宏美さんの傍にいて、宏美さんと五郎さんの京都の音源を聴き終わって息を引き取ったとのこと。ライスくんは本望、きっと幸せだったに違いない。

 

 ベリー、トーマス、ライスの3兄弟もついにみんな星になってしまった。これからは兄弟そろって、宏美さんを上から見守ってくれることだろう。🥰

 

左からライス、ベリー、トーマス(宏美さんのSNSより)

 

 

(1977.5.25 アルバム『ウィズ・ベスト・フレンズ』収録)