昨夕は、私の恩師の一人である指揮者の田久保裕一先生の『第九』特別コンサートに足を運んだ。演奏はジャパン・フェスティバル・オーケストラ&コーラスと言い、田久保先生の提唱で海外公演のために全国から集まったメンバーである。言わば、田久保先生の音楽性・人間性に惹かれて集まった同志の集団だ。本来ならベートーヴェン生誕250年の2020年にウィーンで演奏会を予定していた、と言う。それがこのコロナ禍で中止を余儀なくされ、ようやく2年の時を経て開催に漕ぎつけた、という訳である。オケのメンバー、そしてマスクを付けて歌う合唱団の面々からもその想いがひしひしと伝わって来た。

 

 

 さて、今日は発売から42周年を迎える宏美さんの記念すべき20枚目のシングルである「女優」を取り上げる。熱心な読者の皆様は、「え?また『女優』?」と思われるかも知れない。それもそのはず、このブログを始めて間もなく「『さよならの挽歌』『女優』の相似」(2020.5.5)、次いで「『女優』『スローな愛がいいわ』徹底比較」〈前篇〉〈後篇〉(2020.6.13〜14)ですでに論じ、さらに「宏美さんの歌でわかる4度進行❣️」(2020.10.18)でも取り上げたからだ。

 

 そうなのだ。こと「女優」に関してはまだまだ書けそうなのである。何しろ、ファンになって初めて発売日に買ったシングルだし、ちょうどその時期に私は実家を離れて大学の寄宿舎生活を始める、という大きな人生の節目と重なったことも関係しているように思う。「またか」と言わずにどうぞお付き合いいただきたい。🙇‍♂️

 

 1980年3月、大学への進学が決まった私は、ルンルンの桜色の日々。ちょうどその頃、この「女優」のリリースが近づき、テレビやラジオで目や耳にする機会が増えてきた。以前にも書いたが、私の家では「横綱輪島が現役のうちに」と言うことで、1978年の5月にはもうビデオデッキを購入していた。これは当時友人宅の中でも早い方であった。それが、宏美さん関連でもフルに活用されるようになるのだ。3月中はもちろん私が宏美さんの出演番組の出演シーンだけを録画していた。ビデオテープはまだ高価だったし、デッキ1台なのでダビング編集などはできなかったのだ。テレビで初めて「女優」を見たのは、東京12チャンネル(現:テレビ東京)の『ヤンヤン歌うスタジオ』だったと記憶している。あのねのねのお二人がメインで進行していた番組だ。

 

 私が大学の宿舎に入ってしまうと、留守宅での宏美さん出演番組チェックと録画をする役は、全て弟が引き受けてくれることになった。それまでも、輪島の相撲も弟が録画してくれることが多く、自然の流れでそうなったのだろう。弟は『明星』や『平凡』を買って、アイドルのスケジュール表を綿密にチェック。生番組は分かりやすいが、そのうち収録番組も収録日から放映日が特定できるようになったと言う。もちろん新聞のテレビ欄等もくまなくチェックしてくれていた。特に私が宿舎に移り住んだこの時期は弟も使命感に燃えて(?)いたのだろう、「恐らく『女優』は、宏美さんが出演した番組全てを録画したと思う」と豪語している。

 

 当時の録画メモから、「女優」を歌われた番組名だけを列挙してみよう。

 

●ヤンヤン歌うスタジオ(東京)

●TVジョッキー(NTV)

●ヤングおー!おー!(CX)

●夜のヒットスタジオ(CX)

●11時に歌いましょう(TBS)

●番組名不明(東京)

●笑アップ歌謡大作戦(朝日)

●レッツゴーヤング(NHK)

●紅白歌のベストテン(NTV)

●歌のビッグステージ(NHK)

●ミッドナイトショー(朝日)

●スター誕生!(NTV)

●8時だヨ!全員集合(TBS)

●クイズ・ドレミファドン!(CX)

●プロポーズ大作戦(朝日)

●番組名不明(不明)

●番組名不明(三波伸介の番組、不明)

●飛びだしマガジン12(ワンツウ)(東京)

●のど自慢(NHK)

●日本テレビ音楽祭(NTV)

 

 皆様にも懐かしい番組が多々おありだったのではないか。もちろんこの中では、複数回登場している番組がいくつもあり、弟の献身的な働きを思うと今更ながらに頭が下がる。

 

 

 この「女優」は、同年8月のロス録音盤『Wish』にニューバージョンが収録されている。シングルバージョンはもちろん作曲者の京平先生のアレンジだが、このロス録音は後藤次利さん。基本の構造は変えていないが、前奏・間奏・後奏の流麗なストリングスの部分は、エレキギターのソロに差し替えられており、これがまた良い。またドラムスをはじめとして、リズムセクションの音がシャープに聞こえるのは、演奏・録音双方の違いによるのか。宏美さんの声までもが、西海岸っぽくドライに聞こえる気がする。

 

 このバージョンのひとつポイントは、ブリッジの部分の「♪ 見られるなら 一番きれいな私を」のリズムを1箇所だけ改変しているところである。具体的には「♪ 私を」の前に入っている8分休符をカットして、3拍目頭から「♪ 私を」を歌うよう変更し、リズムセクションもキメが入るのである。下記の譜面をご参照いただきたいが、これによりオリジナルの流れるようなメロディーラインに一つアクセントが加わり、インパクトを残すのである。是非聴き比べていただきたい。

 

 

 

 さらにこの曲は、1999年のセルフカバー・アルバム『Never Again〜許さない』でも、新たに川口真さんのアレンジで吹き込み直している。このアレンジの特徴は、ビブラホン(金山功)とアコーディオン(風間文彦)の音色が醸し出す、シャンソン風の色彩である。また、オリジナルはシンプルなツーコーラスだが、このバージョンではサビを頭に持って来て、さらにサビのヴァリエーションをコーダにも付け加える、という凝った構成に変えている。

 

 ライナーノーツには「少し大人びた歌詩があの頃の私にはちょっと照れくさいって言うか…くすぐったかったナァ…」と書かれているが、このNever Again バージョンに至ってようやく等身大のご自分の歌になったと言うか、より深い味わいの感じられるボーカルになっていると感じる。こちらもどうぞ。

 

 

 またこの曲は近年、コロナ禍の自粛中にマツコさんが「1日100回くらいは聴いた」と言われたことが話題を呼んだ。発売から40年以上経っても色褪せない名曲である。最後に『人生、歌がある』の〈作詞家・なかにし礼特集〉(2019年10月)の際の、近年の宏美さんの歌唱映像をご覧いただいてお別れしたい。若い頃の高音の伸びやかさは失われたが、マツコさん好みの?大人の色香漂う歌唱である。

 

 

(1980.4.5シングル)