今朝は少し冷え込み、ピリッとした天気に。職場から見事な富士山が見えたので思わずパチリ。そして今日は宏美さん&五郎さんの大阪オリックス劇場の日。宏美さんやスタッフ、関東から遠征組の仲間たちは、新幹線の窓からもっと大きな富士山を眺めているだろうな、と思いを馳せている。残留組の私は、プレミアム・コンサートの大成功を祈りつつ、粛々とブログを書くことにしよう。
職場の窓から見た富士山(2021年12月2日)
「I miss you so long(さよならもいいね) 」は、19thオリジナルアルバム『Me too』のA面ラストに配された、しっとりとしたスローバラード。作詞・作曲は同アルバムの最初の3曲と同じ影森潤×和泉常寛コンビ。編曲の中村哲さんは、サックスのソロも自ら演奏している。
このアルバムは、発売時期もあり全体に夏をイメージした曲が多い。だが、宏美さんも紙ジャケもライナーノーツで振り返っておられる通り、事務所独立後の吹っ切れたような宏美さんの歌い上げと比べると、抑えた声の出し方・歌い方の曲が目立つ。特にこの歌は、全編を通してふだんより細い声で歌われ、一切の歌い上げもない。過ぎ去った恋の季節を「I miss you so long(さよならもいいね)」というタイトルに象徴されるように、淋しさと強がりと前を向く気持ちなどが綯い交ぜになった気持ちを、上手く表現している歌だと思う。
私が特に好きなのは、サビの「♪ Kiss the memories さよならもいいね」からの部分である。この音域(B音まで)は、当時の宏美さんだと地声で歌い上げる場合が多かった。近年ではもちろんファルセットを用いてソフトに歌われる。この曲では、珍しいことに地声でありながら6割方の声量に抑え、吐息混じりのような独特の歌唱なのである。比山さんらのバックコーラスもあり、全体に洒脱な仕上がりになっている。
もう一つ。この箇所は、トニックの和音に対してメロディーの「♪ Kiss the memories」の太赤字の部分が、9thに当たることが私のツボに来るのだ。トニックに対して9thとは、メジャーなら〔ドミソ〕に対してテンションの〔レ〕が、マイナーなら〔ラドミ〕に対して同じく〔シ〕がメロディーに来るという意味だ。
テンションと言うのは、平たく言えば不協和音のような緊張感のある音で、元々ジャズやボサノバなどでは頻繁に使用される。有名なアントニオ・カルロス・ジョビンの「イパネマの娘」の出だしのメロディーも、トニックに9thのメロをぶつけて効果を上げている。
それが、1960年代にビートルズが登場して以降、奇抜なコード進行や転調、9thを含むテンションの使用などが、ポピュラーミュージック界全般で市民権を得たと言ってもよいだろう。ビートルズの「イエスタデイ」(1965)やカーペンターズの「スーパースター」(1971)なども、歌メロにこの9thを使用して印象的な歌い出しとなっている。
彼らの影響を受け、日本でも筒美京平や都倉俊一といった職業作曲家の先生方や、ユーミンやサザンの桑田サンのようなシンガーソングライターらが、このようなサウンドを取り入れてヒット曲を量産した。80年代には日本のポップス界でもこの流れが顕著になったが、中でも安全地帯の玉置浩二さんはこのメロ=9thの絶妙な使い手だと言われる(→こちらのサイトを参考にしました)。大変私の印象に残っているのが、「悲しみにさよなら」の前サビ部分の「♪ 泣かないで ひとりで 〜」である。この洒落た都会的な感じが、ヒットの要因の一つであることは明らかであろう。
宏美さんのシングル作品でメロ=9thを使用した曲は?と考えたら、いくつか思いついたので紹介しておこう。
●女優→♪ アークトレース おんなはいつだーってー
(「アクトレス」の部分は、「スーパースター」の歌い出しとソックリである)
●家路→♪ おかえりーなさい 私のところへ
●聞こえてくるラプソディー→♪ 誰よりーももーっとーそーばーにいてー
●Thank You !→♪ 出逢いはいーつでーもー 突然の事
さて、ついつい深入りしてしまった。メロに9thを持って来たことが、特にこの「I miss you so long(さよならもいいね)」の曲調とマッチし、気怠く切ない感じがするところが大好きなのだ。間奏の今剛さんによるギターソロも相乗効果を生み出し、この曲のイメージを演出している。
珍しくアンニュイな雰囲気を持つこの曲、最後にゆっくりお楽しみください。
(1988.7.21 アルバム『Me too』収録)
昨日、「神田川」(南こうせつ)や「メランコリー」(梓みちよ)などのヒット曲で知られる作詞家の喜多條忠さんの訃報が流れた。宏美さんへの提供楽曲では「悲しみのほとり」がある。心からご冥福をお祈りしたい。