今朝起きると暴風雨。家を出る時もまだ雨が残っていた。だが、職場に着くと雨は上がっており、はじめ雲に隠れていた霊峰富士が、強風のおかげで真っ白な見事な姿を現した。今日は良い日になりそうな予感がした。

 

 

 「そっと愛して」は、52ndシングルの「愛がいっぱい」のカップリング曲。メインタイトル同様に吉田美奈子プロデュースで、詞曲編共に美奈子さんである。軽快なポップナンバーの「愛がいっぱい」と対照的に、ミディアムのバラードでじっくりと聴かせる。翌月リリースされたアルバム『Shower of Love』でも、オープニングの「愛がいっぱい」に続いて収録されている。

 

 心の奥底に秘めた熱い想い。別の女性を愛するその相手に出会ってしまい、「打ち明けたい」気持ちに心が震えたーーそんなヒロインの一途な恋心を歌った歌である。歌詞には、美奈子さんの特徴である「扉(ドア)」「電飾(あかり)」など、ふりがななしでは読めない漢字が並べられている。

 

 イントロから美奈子さんらしい厚めのコーラスと渕野さんのサックスソロが入る。このアルバムの吉田美奈子作品は、「愛がいっぱい」「BELIEVIN’」と本楽曲の3曲ともコーラス、サックスが重要な役割を果たしている。

 

 宏美さんのボーカルは一音一音とても丁寧に歌っておられると感じる。テンポがゆっくりめで長めの音が多く、また高音域も含めて全編にわたって地声で押し切っており、聴く人によっては若干くどく感じるかも知れない。

 

 ちょっと変わった構成にも触れておかねばなるまい。AA’B+A”C+Bコーダ、と表したらよいか。ワンコーラス聴くと、Bパートの「♪ そっと愛していた〜」がサビと思える。間奏の後、Aパートが再現されると思いきや、節回しが大きく変わる。これは、元々同じパートなのを、美奈子さんのプロデュースで、宏美さんはあまりなさらないフェイクというかアドリブというか、そういう歌い方をしていると考えられる。

 

 さらにその後、Bパートをスキップして新しい歌メロのCパート「♪ 灯る電飾が綺麗な夜だから〜」が大サビ風に現れるのだ。ここは当時の宏美さんとしても、地声の音域いっぱいいっぱいで、かなり情熱的に歌い上げている。そしてコーダでは、Bパートがリフレインされ、フェイドアウトしてゆく。最後に聞こえる「♪ そっと愛していた」は、ちゃんと歌詞カードにも記載されており、タイトルにも重なるし、意図があって繰り返されている部分と考えられる。

 

 

 この歌は復刻盤のライナーノーツでも「本当に素敵な曲」と書かれている通り、宏美さんのお気に入りでもあったと見え、2000年のライブハウスツアーでも披露されていた。2月に行われた六本木のSTB139でのライブの模様がテレビで放映されたことがあった。その時のビデオが今でも視聴可能だ。リズムとコーラスの入ったトラックを使いながら、北島直樹さんのピアノ、古川昌義さんのギターのそれぞれ生音を被せるという贅沢な伴奏であった。ライブでも、歌詞カードの最後にあった「♪ そっと愛していた」までしっかり歌われていた。

 

 こんな曲こそ、現在のお声で力まず歌われたらどうだろう。また違った味わいが感じられるのではないだろうか。

 

(1997.9.22 シングル「愛がいっぱい」カップリング曲)