吉田美奈子さんプロデュース(作詞・作曲・編曲とも)の、岩崎宏美復帰第3弾シングル。発売直後のオリジナル・アルバム『Shower of Love』のオープナーでもある。イントロ・間奏・アウトロと何度も繰り返されるサビと同じコード進行(キーは違うが、「ピラミッド」のアウトロと全く同じ)が頭から離れなくなる。コーラスやサックス(渕野繁雄)のソロもたいへん印象的な、パンチの効いた好ナンバーである。

 

 内容は、「愛ゆえに」恋人を置いて旅立つ主人公の想いを歌っている歌である。ちょっと聞くと、ありがちなシチュエーションに思える。宏美さんの持ち歌で言うと、「チェイス」の「♪ 愛しているから 別れるなんて/あなたの言葉に嘘がある」、「恋文」の「♪『アリガトウ』っていう意味が 『これきり』っていう意味だと/最後まで気がつかなかった」の男性のように、愛や感謝の言葉を並べてきれいに別れようとする歌なのかな、と。

 

 だがよく聴くと、違うような気がする。「愛がいっぱい」「愛をいっぱい」の歌詞はそれぞれ6回も繰り返される。大サビに当たる部分でも、「♪ 太陽みたいに暖く/あなたと愛し合おう」とあくまで明るく爽やかに歌い切っており、彼女の愛に虚飾がないことを私は感じるのだ。

 

「♪ 愛がいっぱい そう (V)待っていてね」ーー最後、6回目のリフレインで、「そう」の後に初めて8分休符が入り、否が応でも「待っていてね」が強調される。やはり彼女の愛は真実なのではないか。

 

 

 さて、この曲には思い出がいっぱいある。

 

 インドネシアへの赴任が前倒しで決まった時、妻のお腹の中には長女がいた。初めての出産の時に、妻の傍らにいることができない。生まれてきた子どもをすぐにこの手に抱くことができない。海外勤務は自分の希望ではあったが、私はこの異動の話を断ろうと思った。しかし、それを後押ししてくれたのは、他ならぬ妻であった。

 

 1997年4月、まず単身で赴任。長女の誕生が5月、妻が長女を連れてインドネシア入りしたのは8月であった。そして、この「愛がいっぱい」が9月に発売されたのである。だからこの歌を聴くと、海外で親子3人暮らしという全く新しい環境でスタートした楽しい日々の思い出が、次々に甦ってくるのである。

 

 宏美さんがミュージックフェアに出演してこの「愛がいっぱい」を歌われたことがあった。インドネシアではもちろん見られなかったので、弟が録画してくれたビデオをダビングして、他の荷物と共に義母が送ってくれた。

 

 ところが、かの国では荷物は開封された上、1ヶ月近くも郵便局に留め置かれてしまう。郵便代金は日本で発送する時に支払っているのに、なぜか受け取る時にそれなりの金額をまた支払わねばならない。在インドネシアの長い方に訊くと、嘘かまことか、それは収入の少ない郵便局員たちの給料の足しになるとか。さらに酷いことに、その時荷物の中にカニ缶が入っていて、それが開缶されていた。開けて処分されるのならまだしも、そのまま荷物に入れっ放しになっていたため、腐って大変なことになっていた。😱

 

 そんな荷物に交じって海を渡って来た「愛がいっぱい」のビデオテープ。髪は外ハネでこげ茶っぽいノースリーブのドレス姿の宏美さん。久々のスタンドマイクでダイナミックな振り付けである。歌もCDよりさらに力の入った熱唱、そしてお姿も本当に美しかった。それを見た時の私の感動はひと口では言い表せない。何度繰り返し見たかわからない。その時の映像がYouTubeに上がっていたので、是非みなさまにもご覧いただきたい。

 

 

 当時、宏美さんはプライベートでは最も元気のない時期であった。この「愛がいっぱい」の映像を見ると、私自身は充実した楽しい日々を送っていた頃なのだが、宏美さんの当時の状況を思うと今更ながらに胸が痛む。そんな時期を乗り越えられ、われわれの前で歌い続けてくださる宏美さんに、改めて労いと感謝の気持ちでいっぱいである。

 

(1997.9.22 シングル)