このところ『男女7人秋物語』を見ていたら、この歌を思い出した。そうなのだ。このドラマは男女関係のもつれから、「帰って来いや」「帰って来て」という心情が描かれることが多いからだろう。

 

 この歌は、シャンソン歌手ジルベール・ベコー(Gilbert Bécaud)のオリジナルで、原題は「Je Reviens Te Chercher」(君を迎えに来た、の意)。作詞:ピエール・ドラノエ、作曲:ジルベール・ベコーで、ダリダがカバーしてヒットしたことでも知られている。

 

 詞の内容を要約すると、「僕たちは諍いをした。互いに裏切り、傷つけ合った。僕たちは和解しなきゃいけない。たくさんの優しさ涙と時間を持って、僕は君を迎えに来た」といった感じだろうか。

 

 ベコーのオリジナル、ダリダのカバーを続けてご紹介しておこう。

 

 

 

 宏美さんはこのシャンソンを、1980年のリサイタル『宏美・22才の愛』の企画の中で歌っている。山川啓介さんの訳は、内容的には原詞に比較的忠実に思える。宏美さんが歌うために、女性が男性を迎えに来るというシチュエーションで訳されており、その意味ではダリダ盤に雰囲気が近い(同じ企画の中で、宏美さんはダリダの「愛の砂漠」も歌っている)。ダリダは、結構声を張って歌い上げており、その意味ではむしろ宏美さんの方が語りに近いような前半と歌い上げるサビとの対比が鮮やかである。

 

 前田憲男さんによるアレンジは、ベコー盤の方に近い。歌い出しはピアノ一本で「♪ 迎えに来たの〜」と切々と訴えかける。徐々にストリングスやコーラスが入って来て、サビの「♪ 何も責めないから〜」からはブラスのバッキングも加わり、宏美さんもやや歌い上げて聴かせる。だが、盛り上がり切ることはない。ラストの心の叫びのような「♪ お願い お願い/帰って来て」が悲痛に響き、その後のアウトロで、哀しげなトランペットソロをコーラスとフルバンドが支え、クライマックスを迎えるのだ。当時のライブ音源を聴いていただこう。

 

 

 お聴きいただいた通り、歌の前に彼から電話がかかってくる、という設定のひとり芝居がある。電話の呼び鈴も昭和のダイヤル電話の音で懐かしい。そして「お電話下すって嬉しいわ」という言い回しも、令和の若いカップルには考えられない言葉使いであろう。それにしても、電話の声だけのゲストをお願いするのも難しかったのだろうが、2人の関係を終わらせるのに無言電話とは、いくら何でも酷すぎないだろうか。リサイタルの演出としては、私は疑問符を付したい。

 

 今年の夏のライブハウスで、宏美さんは「再会」「18才の彼」と2曲のシャンソンを披露した。今後シャンソンのレパートリーを増やしていきたいとも仰っていた。もちろん大歓迎だが、過去に歌われたものでも、この「帰っておいで」や「ラ・ボエーム」「行かないで」など、ぜひ人生経験を積まれた今の宏美さんのお声で聴かせていただきたいと、強く願うのだ。

 

(1980.12.20アルバム『岩崎宏美リサイタル 宏美・22才の愛』収録)