1983年、最後のリサイタルで歌われたシャンソンのナンバー。金子由香利さんの歌唱で、あまりにも有名な曲である。宏美さんは、金子さんと同じ、矢田部道一さんの訳詞で歌われている。宏美さんは、百恵さんに誘われて金子さんのリサイタルを観に行き、憧れてご自身がこのリサイタルで歌うことを提案したと言う。

 

 同じリサイタルで、宏美さんはカンツォーネ*の「愛しのジジ」も続けて披露している。こちらも長尺の台詞のある難しい歌だが、歌と台詞部分がハッキリ分かれていること、カンツォーネ*ということで歌の部分は宏美さんの得意とする歌い上げのできるパートがあり、「再会」と比較すれば、まだ与し易かったのではないか。

 

 森繁久彌翁の名言「歌は語れ、台詞は歌え」を思い出す。「再会」は、歌と台詞が明確には分かれていず、両者が有機的に融合し、一体となって自由に行き来する。もちろん歌い上げは皆無である。もうすぐ25歳、という年齢だった宏美さんがチャレンジするには、かなりハードルが高かったはずである。今聴いても、どことなくぎこちなさが残っているように感じる。まだ20代前半だった宏美さんと、金子由香利さんとの一面的な比較は酷であろう。しかし、宏美さんにはもちろん、類い稀な美声と歌唱力という武器があるし、若さと初々しさという何物にも替え難い魅力がある。構成の山川啓介さんも、「年相応で歌うのは当たり前だから、逆に新鮮でいいと思う」と言ったという。このライブ音源は、若き日の岩崎宏美の記念碑的録音と言って良いだろう。

 

 この翌年に宏美さんは事務所を独立、86年に『屋根の上のヴァイオリン弾き』、87年に『レ・ミゼラブル』と続けてミュージカルに出演する。そう考えると、この「再会」「愛しのジジ」という選曲をされた時には、ミュージカル出演というものが、すでに宏美さんの視野に入っていたのかも知れない。

 

 幸せなことに、この年のリサイタルは映像ソフト化されている。この「再会」も収録されており、復刻されたDVDでゆっくり鑑賞することができる。「エアポートまで」という書き下ろしの「ドレスお着替えソング」で着替えた、黒の細身のドレスにレースの手袋、長い髪を後ろで束ねた大人っぽい宏美さんが腰掛けて歌うのだ。2節の「♪ あの方 奥さんでしょ?/とても 素敵な人ね」の部分で視線を移動させて第三者の存在を感じさせる辺りは、なかなか堂に入ったものである。「♪ 今でも あなたを」でバックの演奏が止まり、「愛して」と息だけで語る。「♪ いるのよー」と無伴奏かつピアニッシモで歌うラストは圧巻だ。YouTubeでは見当たらなかったので、是非皆さんご購入の上ご覧いただきたい(笑)。

 

 

 昨夜、すでに「再会」をブログで取り上げようと決めていたので、夕食後、義母に「おばあちゃん、金子由香利、生で聴いたことある?」と訊いてみた。「あるある、銀巴里にさんざん行ったわ。大好きだもの」と言いながら、チョコチョコっとスマホをいじったら、流れてきたのがこの「再会」だった。

 

 

 すると義父が、「おばあちゃんのスマホ凄いな!そんなの出るんだ」と言う。半年ほど前、みんなが持っている「魔法の機械」=スマホがどうしても欲しくて買い換えた義父だが、未だに電話するのと天気予報を見ることしかできない。しかもそれを自分の使い方のせいではなく、らくらくホンという安物を当てがわれたせいだ、と信じ(ようとし)ているのだ。

 

 私が教えながら操作すると、無事金子さんの「再会」にたどり着くことができた。満足そうにそれに聴き入る義父であった。(義母や妻によると、何度教えても自分ではどうしてもできないらしい😜)

 

(1983.12.16 アルバム『’83岩崎宏美リサイタル』収録)

 

【追記2021.12.17】「愛しのジジ」をカンツォーネと書いてしまったが、実際にはカンツォーネ風を意識したシャンソンであった。お詫びして訂正したい。詳しくは「愛しのジジ」のブログで。

 

【追記2023.7.29】2020年暮れの『レジェンドたちのシャンソン』以来、この曲が再び頻繁に宏美さんのステージで取り上げられるようになった。成熟した大人の歌声でどうぞ。