1980年秋のリサイタル、Ⅰ部の企画『宏美 22歳の愛』の中で続けて歌われた。シャンソンの「愛の砂漠」(Le Sable De L'amour)を、ジャニス・イアンの「17歳の頃」(At Seventeen,1975)でサンドイッチする形だった。編曲は前田憲男さん。なので、今日は2曲まとめて取り上げることとする。
全米3位の大ヒットとなった「17歳の頃」は、もちろんジャニス・イアン本人の作詞・作曲。宏美さんはジャニスの「ラブ・イズ・ブラインド」「ジェシー」等もライブで取り上げている。
17才というのは青春の象徴的な年齢で、古今東西文学や音楽、映画等様々なシーンで取り上げられている。ボサノバ調のこの「17才の頃」は、シンシアの「17才」や宏美さんの「センチメンタル」の青春真っ只中的なサウンドと全く異なり、ずっと大人びた雰囲気である。今回原詞に当たってみてその内容に改めて驚いた。
“♪ I learned the truth at seventeen”という始まりからして衝撃的である。英語表現が難しくて、いろいろなサイトを参考にさせていただいた。この詞のテーマとしては、一貫して「愛は可愛い子のためにあって、私みたいな子のためにはない」と言うようなことを言っているようだ。
岡田冨美子さんの邦訳は、若さが全てだった青い季節=17才の頃の恋を回想する等身大の内容になっている。宏美さんの語りの部分ではバックでアコギがリズムを刻んでおり、歌入り前から流麗なストリングスが被ってくる。全体にボサノバらしく宏美さんのボーカルもライトな感じだが、後半に入り転調して若干音域が上がるところ(♪ 若さがすべてだった〜)から、僅かに気持ちの昂りを表現している。(Ⅰ)で1番、(Ⅱ)で2、3番と分けて歌唱している。
「愛の砂漠」は、Frank Gerald - Daniele Vangarde の作品。谷田部道一さんの訳で金子由香利さんが歌い、日本でも知られている。原詞はフランス語なのでよく解らないが、翻訳ソフトで訳出したものを見ると、金子由香利さんのバージョンは比較的原詞に忠実な気がする。オリジナルかどうか良く判らないが、ネット検索ではダリダのバージョン(1969)がヒットするので、金子さんと双方の動画を紹介しておこう。
宏美さんのバージョンは、平井靖人さんの訳。『宏美 22才の愛』というテーマに則って、前後の「17才の頃」との有機的な繋がりに配慮して意訳されている、という印象だ。83年のリサイタルで取り上げた「再会」と比べると、台詞部分と歌唱部分がハッキリと分かれているので、宏美さんにとっての難易度はそこまで高くなかったかも知れない。台詞部分の情景・情感が、たった8小節の歌唱部分で溢れ出すような宏美さんの名唱である。バックで鳴るトランペットも印象的。
この80年のリサイタルが名曲・名唱揃いであることは以前にも触れた。だが通して聴くと、どうしてもアップテンポのノリの良い曲や、歌い上げ系のスケールの大きな曲、オリジナルのヒット・メドレー等に耳が行ってしまいがちである。今回、ブログを書くためにこの2曲だけを取り出して何度か聴き直し、その素晴らしさを再発見した、という感じだ。皆様もぜひ、この機会にこの珠玉の小品2曲に、もう一度スポットを当ててみていただければ幸いである。
(1980.12.20 アルバム『岩崎宏美リサイタル 宏美 22才の愛』収録)
【追伸】私がこのブログを書こうと思うキッカケを与えてくださった眞峯隆義氏の『岩崎宏美論』の増補版がこの2月16日に刊行された。何と価格も値下げされた。初版本をお持ちでない方は是非この機にご購入を検討されてはいかがだろうか。すでにお持ちの方は、30%オフのクーポンがもらえるらしい。今回の表紙は「すみれ色」である。🥰