シングル盤のB面ーーー。一定の年齢より上の方は、この「B面」というものが呼び起こす不思議な郷愁をご理解いただけると思う。それは、CDシングルのカップリング曲とも少し違うし、ましてや音楽はダウンロードして聴く時代になり、サブスクなど聴き放題で楽しむ若者には、解り難い感覚かも知れない。テレビでは披露されず、シングル盤を買った者だけが聴くことができる、裏面の音楽。それはささやかな楽しみであった。

 

 B面の曲から、A面曲やテレビからは感じ取れないその歌手の別の一面、魅力を発見するような瞬間が好きであった。私の記憶に残るそんなB面曲たちをちょっとご紹介しよう。YouTubeにあるかなぁと思ったら、ビックリ!リストアップした曲は全て上がっていた。やっぱりどれも名曲なのかしら。

 

 初めて自分の小遣いで買った奥村チヨさんの「恋人形」(「中途半端はやめて」B面)、

 

 

天地真理さんの「ポケットに涙」(「ひとりじゃないの」B面)、

 

 

ちあきなおみさんの「最后の電話」(「喝采」B面)、

 

 

山本リンダさんの「白い雨が降る」(「じんじんさせて」B面)、

 

 

そして大ファンだった南沙織さんはどれも思い出深いが、特に好きだったのは「素晴らしいひと」(「純潔」B面)。

 

 

 もう何十年も聴いていなかった曲もあるのに、スラスラと歌詞やメロディーが出てくる。🥰

 

 

 さて、前振りが大変長くなってしまった。本日取り上げるのは、そんな意味で私にとって宏美さんだけでなく、全てのB面曲の最高峰*に位置する「泣きながら目覚めて」である。私にとって初めて買った宏美さんのシングル盤、ということももちろん大きく影響しているであろう。A面の「万華鏡」が、夢幻的な独特の雰囲気を備え、宏美さんの得意技を封印したような内向的な曲であるのに対し、B面の「泣きながら目覚めて」は、全く違った趣を湛えた曲なのだ。

 

 作家陣は、「万華鏡」と同じで、作詞が三浦徳子さん、作編曲が馬飼野康二さんである。歌詞の内容は、「♪ 他の女抱き寄せた その腕の中で/夢見る罪深さ 心で感じて」と出てくるので、道ならぬ恋の歌だろうか。そして心のどこかで、その関係の終わりを予感している、そんな主人公である。

 

 曲調は3連バラード。チェンバロ風のアルペジオに乗せて、シンセが牧歌的な明るいメロディーを奏でるイントロで始まる。構成は、AA’B+A’B↑BBC(↑の箇所で半音上がる)。イントロはE♭メジャーだが、歌入り直前にG7が鳴り、歌はレラティブ・キー(平行調)のCマイナーで始まる。音域は中低音で、決して実を結ぶことのない愛を切々と聴かせる。

 

 と、途端に霧が晴れたように、サビのBメロでパラレル・キー(同主調)のCメジャーに転調するのだ。「♪ 破れても 悔いはないのよ」と、達観したような想いが伸びやかに歌われる。ここからそれまでほとんど入らなかったドラムスが12ビートを刻み出す。

 

 2番が終わると、突然半音上のD♭メジャーに転調する。ここからバックの音数も増え、一気にボルテージが上がってくる。宏美さんは真骨頂の歌い上げに入る。このスケールの大きな広がりを感じさせるところが大好きなのだ。

 

 リフレインのBパート最終回には、高らかに鳴り響く鐘の音のようにピアノの和音が打ち鳴らされる。「♪ 青い空 飛んでく鳥よ/ふりそそぐ風のやさしさ」という部分では、宏美さんが、このような状況に負けず、前を向く主人公の心の様を見事に表現し切っている。それを勇気づけるようにクラッシュシンバルが連発で炸裂する。

 

 そしてさらに、最後のBパートに続けて、コーダとも呼ぶべき新たなCパートが出現するのだ。歌詞で言うと「♪ (愛の)終り 耐えることもできるように」の部分で、カッコを付けた「愛の」はBパート最後のフレーズである。そのモチーフを4回音程を上げながら繰り返し、ラスト「♪ できーるーよーーにー」はフォルティッシモかつモルト・リタルダンドの急ブレーキがかかる。しかも太赤字にした部分にはナチュラルが付いて半音下がり、宏美さんの声も哀調を帯びる。絡みついてくる哀しみを振り払うように、最後の「に」は明るいメジャーのトニックに着地し、宏美さんが力強く歌い切る。アウトロなしのまさに劇的な幕切れとなる。

 

 本当に短い映画でも観ていたかのような満足感を味わうことができる楽曲である。最後にYouTubeをご紹介しよう。

 

 

(1979.9.15 シングル「万華鏡」B面)

 

*「月見草」「私たち」の2曲は、われわれ宏美ファンにとって特別なB面曲である。だが、私は「遅れてきたファン」で、両曲はコンサートやベスト盤等で先に知ったので、私にとっては「B面曲として聴いた」曲たちとは少し違う位置付けになるのだ。

 

P.S.またしても嬉しいニュースが飛び込んできた。これももちろん“買い"ですよ❣️😉