さだまさしさんが、1991年に妹さんの佐田玲子さんの2ndシングルとして提供した楽曲。この玲子さんのバージョンは、当時日本中で一時的に大ブームとなった『一杯のかけそば』の映画主題歌にもなったそうだ。後の1994年、まさしさんが自身の20thアルバム『おもひで泥棒』でセルフカバーしている。

 

 生きることで訪れる悲しさや淋しさと、どのような人間でも不要な人間は存在しないという想いを表したやや重い作品だが、曲調は明るい未来を志向した爽やかな一条の光を湛えている。

 

 宏美さんはこの曲を、『Dear Friends Ⅵ さだまさしトリビュート』で吹き込んでいる。

 

♪ 泣かないで 負けないで

 私 生きてみるから

 

という「生」への決意を新たにする前向きの言葉が歌われるが、それは逆に主人公が一時は「生」を諦めようとした、とも取れる。生きることへの絶望ーーそれは宏美さんのオリジナルの中では、なかなか歌われて来なかった深刻な想いと言える。「摩天楼」には「死ぬ」という言葉が二度も出てくるが、歌の内容からはいっときの混乱・激情に支配される主人公といった心証が強い。「そのとき彼女はジーンセバーグ」には、「睡眠薬 テーブルにならべて」というフレーズが出てくるが、曲調と「かわらない月曜日」に救われる。私が今思い浮かぶ深刻な「死」がイメージされる曲は、「さ・よ・な・ら」くらいである。

 

 前半で悲しさや淋しさを歌っているこの曲だが、後半サビからは「♪ こんな私でさえ 誰かが求めてる(待っている)」と前向きな確信を歌うところが私の琴線に触れる。それを「♪ 私の為の 予約席がある」と表現するまさしさんの、いつもながら非凡な才能に舌を巻くのである。宏美さんがよくMCで仰る「まさしさんの歌を歌うたびに、良い学びの時間をいただいている」というのも、蓋し明言である。

 

 またここのメロディーラインが自然で美しいのだ。ハ長調で読めば、♪ラーラレドシラソーソド、ファミファソラシドレソ、と音階をきれいに下って上るシンプルさである。宏美さんの包み込むような温かいお声が泣ける。

 

 

 この曲は、2013〜14年のツアー『あなたへ〜いつまでも いつでも〜』の終盤で取り上げられ、われわれに大きな印象を残した。編曲は上杉洋史さんで、ツアーのメンバーがまるまるレコーディングにも参加している。宏美さんはいつものバックのサウンドに安心して身を委ねている感じで、いつも素晴らしいパフォーマンスをしてくださった。

 

 それは、われわれに「生きる」勇気を与えてくれる、優しくも力強い歌唱だった。

 

(2012.5.23 アルバム『Dear Friends Ⅵ さだまさしトリビュート』収録)