宏美ファン以外や、海外のリスナーの間でも評価が高いという2ndアルバム『ファンタジー』。その2曲目に収められた洋楽センス溢れる楽曲。作詞:阿久悠、作編曲:筒美京平という、「ロマンス」〜「想い出の樹の下で」のヒットシングルを手がけた最強コンビの作品である。
16ビートのミディアム・チューンで、そよ風のような爽やかなサウンドとボーカルが快感だ。私は当時洋楽の素養がなかったので、最初にこのアルバムを聴いた時は、「パピヨン」「愛よ、おやすみ」「ひとりぼっちの部屋」のような、洋楽の要素がベースにありながらも和風の解り易さがある曲たちに飛びついた。この「キャンパス・ガール」のカッコよさに気づいたのは、少し時間が経ってからだったような記憶がある。
ハープのアルペジオにフルートが重なり、イントロが始まる。そこにギターの泣くようなソロが入って来て、徐々にリズムが加わり、スネア〜タムタムの16分音符からボーカルにバトンタッチする洒落たイントロだ。ボーカルのバックで時折りポロポロ鳴る小粋なピアノは、ライナーノーツによればハネケンさんらしい。
歌詞本編には「キャンパス」という言葉は使われていないが、タイトルから考えてこの歌の舞台は大学構内の芝生。恋が芽生えようとする、何気ない光景が懐かしく愛おしい。レコーディング当時まだ高校2年生の宏美さんにしてみれば、少し背伸びした感じだろうか。
キーはFメジャーのようだが、始まりも終わりもトニックではなく、調性感が希薄でふわふわ漂うような感じが歌詞内容にマッチしていると感じる。
構成は前サビの部分とAメロしかないシンプルなもの。2コーラス目のAメロ終わりの「♪ うっとりしているには」の最後の「は」で唐突に半音上に転調する。これはインパクト大である。俄然盛り上がってサビが繰り返され、フェイドアウトしてゆく。
YouTubeでこの曲を調べていたら、コメント欄の「当時は糸居五郎さんのDJが邪魔くさいと思ったが今は懐かしい」みたいな書き込みが目に止まった。さもありなん。「痒い所に手が届く」臼井孝さん企画の紙ジャケでは、何とLP通り糸居さんのDJが入ったものと、DJ抜きのオリジナル音源のものと両方のバージョンが収録されている、というまことにファン大満足の1枚だ。
私も、この曲のイントロには「では、キャンパス・ギャールから!」という糸居さんのDJがないと変な感じがするし、フェイドアウトしてゆくアウトロで「♪ あなたが好きよと告…」まで来ると、どうしても「ファンタジー」のイントロが間髪入れずに始まる気がしてしまうのである。
1982年の1月、宏美さんがシンガポールに行かれたことがあった。その時チャイナタウンの露店でご自分のカセットテープ(『パンドラの小箱』とベスト)を見つけて、思わず2本とも買って来てしまった、というエピソードを聞いた覚えがある。
私も在インドネシア時代に、たまたま立ち寄ったミュージック・ショップで、やはり何本か宏美さんの海賊版カセットを見つけたことがある。アジアあるあるで、漢字やカタカナに笑っちゃうような誤植がいくつもあった。その中の一つしか覚えていないのだが、この曲のタイトルが「キャソパス・ガール」になっていた。🤣あの時なぜ全て買い占めて来なかったのか、思い出すたびに悔やまれる。
(1976.2.10 アルバム『ファンタジー』収録)