9thオリジナル・アルバム『Wish』の中にあって、和製AORの最高峰を極めたと言えるミディアム・チューンである。作詞:橋本淳、作編曲:筒美京平の黄金コンビの作品だ。

 

 まずは京平先生の元ネタを聴いていただこう。ジム・フォトグロの「Beg, Borrow, Or Steal 」(1980)である。毎度のことながら、明らかに元ネタより美味しい楽曲に仕上げる京平先生恐るべし、である。

 

 

 さて、「Street Dancer」である。♩=92〜94くらいの16ビートで、軽く心地よいサウンドであるが、歌詞から滲み出ているのは、ずっと street dancer の生活を続けながら、時の移り変わりを実感する主人公の乾いたような哀しみである。後年の「シンデレラ・ラッシュアワー」とも類似する雰囲気を漂わせている。いや、「♪ スカートの色は今もおなじ/ああ 夢中で 愛したひとがいたのよ」という歌詞からは、私はあの「コパカバーナ」の主人公、ローラさえ思い出すのである。

 

 曲構成はABC×2+Cのツーハーフで、キーはEメジャー。サビに当たるCパートの「♪ 稲妻が近づくわ〜」からの高揚感は何とも形容し難い。「♪ くだけ散る雨に/びしょ濡れでもー」で最高音の上のC♯に駆け上がるのだが、ここのコード進行 F♯m9 - G♯m7(♭5) - C♯7 のゾクゾクする緊張感がたまらない。

 

 間奏・後奏のアルトサックスソロが、また良い。Don Markese の名がクレジットされているが、さすが本場の音!と思わせるインプロヴィゼイションである。

 

 

 宏美さんももちろんこの曲は大のお気に入りで、リリース当時はもちろん、82年初頭のコンサート辺りまで、プログラムを賑わせた。

 

 1980年8月26日に渋谷公会堂で行われたコンサートの模様が、当時FM東京で放送された。それをエアチェックしたカセットテープが、今も手元にある。「Wishes」「Kiss Again」と並んでこの「Street Dancer」も、アルバム『Wish』から披露されている。ライブ・バージョンはワンハーフと短いが、間奏後サビのCパートが繰り返される入り際の、「♪ アー」という上のC♯の声の出し方に注目したい。スタジオ録音では、抑制の効いたお洒落感のある発声だった。ところが、ライブでは「キター、宏美節❣️\(^o^)/」としか言いようのないエキサイティングな歌い方である。

 

 京平先生が宏美さんに書いた名曲は数々あれど、この曲は間違いなく私のベストテンに入ります❣️😍

 

(1980.8.5 アルバム『Wish』収録)