まん防明け近し。昨日は今年に入って初めてコンサートに出かけた。と言っても宏美さんではない。『国府弘子のファンタスティック・エイト』である。宏美さんとの最強タッグでライブやレコーディングも行なっている弘子さんだ。私はJAZZファンでもあり、多少ピアノを嗜む。会場も地元にほど近いミューザ川崎シンフォニーホール、とあっては平日だとて足を運ばないわけには行かない。😊

 

 

 第1部はいきなり2曲目に大曲「ラプソディ・イン・ブルー」、その後は映画音楽コーナーで「太陽がいっぱい」から「パイレーツ・オブ・カリビアン」まで幅広い時代の永遠の名曲を弘子姐さんのカラフルなアレンジ、8人のゴージャスなサウンドで。そして『サウンド・オブ・ミュージック』から「すべての山に登れ」の輝かしいピアノソロで締め括る。

 

 第2部は、ご自分のトリオの演奏からスタート。そしてガラリと趣向を変えて弘子姐さんのオリジナル曲をそれぞれのアーティストとサシで演奏する、という構成だ。フィナーレはまた8人大集合で「スターランド」。アンコールの「英雄ポロネーズ」という選曲は、もしかすると昨秋のショパンコンクールで堂々2位に輝いた反田恭平さんへのオマージュか。弘子さんの言葉の端々からは、ウクライナ情勢にお心を傷めてらっしゃることがとてもよく窺えた。

 

 宏美ファン仲間でたっぷり楽しんだコンサート。帰宅してホッとひと息つくと、大きな揺れが。この時期に、またしても東北である。被災された方には心からお見舞い申し上げる。また、東北新幹線をはじめ、1日も早い復旧・復興を祈るばかりだ。

 

 

 さて、しろみ&しろこのボーカルとピアノのコンビは言うまでもなく素晴らしいが、レアなことこの上ないのが、宏美さんが京平先生のピアノ一本で録音した「Wishes」である。京平作品を108曲も吹き込んでいる野口五郎さんでも、京平先生のピアノで歌った曲はないのだそうだ。これはもう、昭和歌謡界の伝説と言っても過言ではなかろう。

 

 「Wishes」は、9枚目のオリジナル・アルバムにして初の海外録音盤『Wish』のタイトルチューンである。オープニングにショート・バージョン、そしてエンディングにフル・バージョンが収録されている。

 

 作詞:橋本淳、作曲:筒美京平。京平先生と宏美さんの同時録音ということで、宏美さんがカチカチになってしまい、橋本さんが「讃美歌みたいで、ネクタイして聴かなきゃいけない雰囲気。ワインでも飲んでゆったりやりませんか」と提案され、その通りに一杯飲んでからレコーディングしたと言う、あまりにも有名な逸話付きの名曲である。

 

 昨年11月に発売された『筒美京平シングルズ&フェイバリッツ』では、その同録風景の写真がジャケットになったり、年代順の配列なのにこの曲だけそれに従わずDisc-2のラストに収められたりと、言わば別格扱いである。

 

 夢見るような、ひじょうに甘やかな宏美さんの歌声である。だが、歌詞世界の中の「私とあなた」は、「愛を伝えたい」という言葉が出て来たりして、必ずしもステディな関係とは確信できない。まだ恋愛の初期のような間柄なのだろうか。そんなことはどうでもよくなってしまうくらい、京平先生の生ピアノとワインでほろ酔い?の宏美さんの声とに酔ってしまう。ワイン効果か、高音部でもほどよく力が抜けている感じだ。

 

 オープニングとエンディングの2つは完全に別テイクである。オープニングは、ワンコーラスが終わった後のハミングから始まるが、ピアノの音域がエンディングよりもオクターブ高く、天上から降り注いで来る音のようにキラキラしている。

 

オープニング・バージョン

 

エンディング・バージョン

 

 この曲は1994年、岩崎宏美復活の狼煙(?)が上がったディナーショーで、塩谷哲さんのアレンジとピアノ、笠原あやのさんのチェロによって再び甦った。ピアノとチェロと言えば、昨日の弘子姐さんと伊藤ハルトシ君(宏美さんの40周年のステージをサポート)がお二人で演奏された「ユー・チューン・マイ・ハート」もとても良かった。

 

 このディナーショー・バージョンは、翌年のアルバム『MY GRATITUDE』では、前曲「GRATITUDE」から後に続く「ONE DAY IN YOUR LIFE」へと、笠原さんのチェロがブリッジ的な演奏で有機的に繋がっている演出となっている。

 

 宏美さんのボーカルは、オリジナル盤と違い、かなり声を張っている印象があり、こちらはこちらでまた捨て難い魅力がある。

 

 

 不滅の名曲、そして宏美さんご自身のフェイバリッツ中のフェイバリッツ。ふた通りの編曲と歌唱を、どうぞたっぷりとお楽しみください。

 

(1980.8.5 アルバム『Wish』収録)