「素直になれなくて」(Hard To Say I’m Sorry、1982)は、アメリカのロックバンド、シカゴの全米No.1ヒット曲。ホーン・セクション中心のブラス・ロック・スタイルでヒットを飛ばし続けて来たシカゴが、デヴィッド・フォスターを制作に迎えて、大きな転換点になった曲だと言う(メンバーのピーター・セテラも制作に加わっている)。ホーンを抑え、シンセサイザーを活かしたバラード風の曲調は、以降シカゴの楽曲のメインストリームとなる。

 

 私はいつものパターンで、宏美さんの「素直になれなくて」を聴いてからシカゴのレコードを手にする、という逆順でシカゴの他のヒット曲を知るようになった。自分の音楽の嗜好から、私は後年のアルバム、『ナイト・アンド・デイ〜ビッグ・バンド』(1995)がお気に入りである。

 

 シカゴの「素直になれなくて」は、プロデューサーのデヴィッド・フォスター(p)のみならず、メンバー外からTOTOのスティーヴ・ルカサー(g)なども演奏に参加している。ディープな宏美ファンなら、その2年後のアルバム『I won’t break your heart』の制作に関わるメンバーの集結にお気づきのことであろう。

 

 オリジナルのアルバム・バージョンは、「Get Away」という曲が続いて収録されている。こちらの曲は、以前のシカゴのホーン・セクション中心のスタイルに近いものだった。この2曲続くバージョンの、ライブ映像をご覧いただこう。

 

 

 この大ヒット曲を、宏美さんは1982年のリサイタルの2部前半で取り上げた。ゲストのタイム・ファイブとのコラボレーションのコーナーで、「フレンズ・イン・ラブ」の次に歌われている。『ROYAL BOX 〜スーパー・ライブ・コレクション』で、音源・映像とも復刻され、現在でも楽しむことができる。

 

 ピアノが入ってから、サックス(オリジナルはチェロ)が低く唸るイントロ、タイム・ファイブとファニー・キャストのコーラスが被ってくるアレンジは、基本的にシカゴのオリジナルを踏襲していると言えるだろう。訳詞が山川啓介さん、編曲が小野寺忠和さんだ。

 

 素直に謝ることはできないけど、そばにいて抱きしめて欲しいーー原詞の雰囲気を残した山川さんの世界を、宏美さんが情感豊かに歌う。「♪ Hold me now 背中に顔を埋めて」の英詞の部分は、宏美節とも言うべき、私の萌えポイントである。

 

 その直後、「♪ あやまりたいのー」でググッとブレーキがかかり、フィナーレに向かう。さらに「♪ 生まれて初めて〜」で突如短3度上に転調、宏美さんの声が美味しく響くレンジとなり、得意の歌い上げ全開となる。ギターソロを挟んで、ラストの「♪ どこにも 行かないで」が切ない余韻を残して曲を閉じる。

 

 

 リサイタルではこの後、レコードにすらなっていないものの、多くのファンの記憶に残る名曲「五番街の白いドレス」が歌唱され、いよいよリサイタルも佳境に入っていくのである。

 

(1982.12.16 アルバム『’82 岩崎宏美リサイタル』収録)