“潮風”というと真っ先に思い出すのは、私はやはりシンシアの「潮風のメロディ」である。三つ子の魂百まで。小学生の時大好きだった南沙織さんの2ndシングルだ。
宏美さんには名曲「潮風の物語」がある。「満潮」には、“潮風”ではないが“南風”が出てくる。そして「南の島の忘れもの」(本人作詞)の歌い出しは「♪ 潮風に吹かれると想い出す〜」って、「潮風のメロディ」のまんまやんけ、宏美さん!とツッコミたくもなる。😜
そして、20枚目のオリジナル・アルバムに当たる海外録音盤『Full Circle』で、新たな“潮風”の名曲が生まれた。作詞:岩崎宏美(!)、作曲:塩谷哲、編曲:13CATS、オケ編曲:クレア・フィッシャー、「潮風がつぶやいて」である。宏美さんのオリジナルには珍しく(というか、初めて?)、女性同士の友情をテーマにした歌である。
臼井孝さんが、「13年前(アルバム『Love Letter』)に比べて格段に良くなっている」と評した本人作の歌詞である。確かに素人臭さが薄れ、引っかからずに聴ける(笑)。
キャット・グレイのプロデュースによるものであろう、宏美さんの歌唱法は以前とは一線を画していて、歌い上げず抑制が効いている。洋楽志向の曲調にマッチした歌い方だ。
解説を容易にするため、いつものように便宜的に曲をいくつかの部分に分けてみる。
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A:ざわめく街を離れ〜
B:白いセーターを 砂に投げたまま 話す彼女〜
A’:静かに笑ってる 波を見つめてる 夕暮れ
A:肩まで伸びた髪と〜
B:涙 乾くまで 瞳閉じたまま 砂にもたれて〜
A’:潮の香りがする 星を見つめてる 二人で
C:忘れずにいて いつでもそばに あなたの〜
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歌い出しのAメロは、このアルバムに入っている「DREAM ON」同様に、メロディーラインの16分音符がずっと裏、裏に入って来て、リズム感が試されるフレーズである。
Bメロの最初、「♪ 白いー⤵︎」の語尾の投げ出し方は、時折り宏美さんが繰り出す歌い方だ。「♪ 哀しい想い出なら/男と女ならば〜」で短3度上に転調して色彩が変わったところで飛び出す「♪ すッべてここで〜/たッぶん無理ね〜」の太字の高音(D)の出し方は、恐らくキャットの指示だったのだろう。今までの宏美さんにない声の出し方で、この上なくオシャレである。
最後のリフレインであるCパートは、優美なファルセット中心とした、コーラスワークが素晴らしい。コントロールされたスマートな歌唱である。時折り合いの手のように入る地声も効果的だ。
この曲は、『LIVE '96』のCD、DVDでも楽しむことができる。歌い方がスタジオ録音盤とはだいぶ違っていて、そこも興味深い。ライブでは、やはり従来の「宏美節」がそこかしこで顔を出し、洋楽ファンはビックリ、昔からの宏美ファンならニヤリとするところか。特にリフレインでは、スタジオ盤ではワンブレスのところを、息継ぎして気合を入れて歌い上げている。そんな聴き比べも楽しい。颯爽としたSALT(塩谷哲さん)の指揮も、この曲のイントロで拝むことができる。
そのリズムレスのオーケストラだけのイントロは、すこぶる印象的だ。この「潮風がつぶやいて」他、このアルバムで何曲かオーケストラ・アレンジを担当しているクレア・フィッシャーは、アメリカのピアニスト、アレンジャー。’62年の『First Time Out』はジャズ界で高評価を得た。ラテンやボサノバ等も演奏し多くのアルバムをリリース、ハービー・ハンコックに大きな影響を与えたアーティストである。
クレア・フィッシャーと宏美さん
私は当時、宏美ファン仲間のSさんに薦められてクレア・フィッシャーも聴くようになった。Sさんはスムース・ジャズに傾倒していて、宏美さんはこの『Full Circle』のような路線の音楽を志向するべきだ、と力説していた。
彼からは、『Twentieth-Century Harmony』という理論書も薦められて購入。だが、英語と高難度音楽理論という二重のハードルで数ページで挫折、埃をかぶっている(苦笑)。来年定年退職したら、一念発起して読んでみるとするか!
(1995.10.22 アルバム『Full Circle』収録)