8thアルバム『10カラット・ダイヤモンド』のラスト前に収められている。作詞:三浦徳子、作編曲:船山基紀。このペアは、同アルバムの「水曜の朝、海辺で…」も提供している。「テーブルの下」は、疾風のような速いワルツで、どことなくジャズワルツのテイストも感じさせる作品だ。

 

 女性作詞家の阿木燿子さんと三浦さんのお二人で全作品を担当されたこのアルバムは、光り輝くアルバムタイトルとは裏腹に、全体に乾いたような哀しみが流れている。個別に見ると、「東京ーパリ」「めぐり逢い伝説」前述の「水曜の朝、海辺で…」など、幸福感を醸し出す曲も入っているのだが、何故だろう。私には哀しみが前面に出ているように感じられてならない。

 

 

 この曲など、最も象徴的な作品である。風雲急を告げるようなユニゾンのパッセージに始まり、サックスが唸り、ピアノのリズム(♪♩♪♩→このリズムは全曲を通じて何度も繰り返される)が煽るように鳴る強烈なイントロで始まる。4小節ごとに打ち鳴らされるライドシンバルのベルを叩く音も印象的だ。

 

 三浦さんのこの歌詞は、「テーブルの下」の現実と「テーブルの上」の虚飾との対比が、残酷なまでに鮮やかだ。それをよく解っていながら「♪ 本当のことまだ言わないでね」と、哀しい結論を少しでも先延ばしにしたい主人公。だが、「♪ 窓の下で赤いコートが待ってる」*と、アッサリ現実を突きつけられるのだ。

 

 「♪ 小きざみにふるえて いらだちを伝える/本当のことまだ言わないでね」の部分では、D-C♯-C-B-B♭-A-G♯-A と、ベースが半音ずつ下降してゆくのが、主人公の心情を映すようで効果を発揮している。その後サビ前8小節の間奏の印象的なパッセージにはドラムスも一役買っている。

 

 サビでは、突如「♪ 風がまた強く吹き始めてくる(いる)〜」と、1・2番とも突如情景描写になる。ここでは1小節おきにクラッシュシンバルが炸裂し、強風(男の言動)が吹き荒び、窓ガラス(主人公の心)を震わせる様を表す。船山さんは、さすが元々編曲が専門なだけあって、メロディーとサウンドの一体感がたまらない。

 

 この曲の宏美さんのボーカルは、甘やかな思い出を懐かしむことも叶わず、さりとて男の心変わりを嘆き悲しむ暇も与えられず、疾風に翻弄され戸惑うように聞こえる。それだけに最後にひとことだけ繰り返される「♪ もどりたい」が、より悲痛に響くのだ。

 

 間奏と後奏では、耳に残るギターソロ。エンディングでは最後急激にリタルダンドし、ベースのソロから劇的な幕切れとなる。ラストの大曲「微笑の翳り」の前で、強いインパクトを残す楽曲である。

 

(1979.10.5 アルバム『10カラット・ダイヤモンド』収録)

 

【追記 2021.1.7】*印を付した「♪ 窓の下で赤いコートが待ってる」の部分は、主人公の女性の言葉なのではないか、というご指摘を傍目八目さんからいただきました。私も、その方が正しいのではないか、と思いました。ですが、コメント欄でのやり取りの経緯をご理解いただくために、本文はそのまま手を入れずに残しておこうと考えました。ご興味のある方は、是非コメント欄をご一読いただけると嬉しいです。

 傍目八目さん、ありがとうございました。