7thアルバム『パンドラの小箱』より。作詞:橋本淳、作編曲:筒美京平。リズミカルな曲の多いこのアルバムの中で、唯一と言って良いバラード調の曲。A面の最後に配置されることにより、その印象が際立っている。ヤンソンの1981年1月号の特集で、宏美さんご自身がアルバム曲からの自選ベスト3の中に、この曲を挙げている(あと2曲は「Wishes」「チェイス」)。

 

 

 この『パンドラの小箱』の演奏は、「Dr.ドラゴン&サウンド・オブ・アラブ」としかクレジットされていないが、臼井孝さんによると、次のような豪華メンバーである。

 

 林立夫(Dr)後藤次利(B)松原正樹(G)佐藤準(Key)坂本龍一(Key)渋井博(Key)斎藤ノブ(Per)

 

 この歌の主人公の置かれたシチュエーションを振り返ってみよう。「どこかで喧嘩をしてズタボロで現れたカレシを前に、言葉なんて何も云えない。夢中で抱きしめて、口づけをして、“I love you"ただそれだけ」という歌である。

 

 つまり、「カンバセーション」と言うのは、やや逆説的なタイトルである。心と心が愛を求め合って、言葉による会話は要らない。あくまで心と心のカンバセーションなのだ。

 

 宏美さんはこの曲をどのように料理したか。おそらく、それまで吹き込んだどの曲よりも声を使っていないのではないか。囁くような歌い方であり、サビの部分(♪ 夢中であなたを抱きしめていた〜)に入ってもそれは基本的に変わらない。言葉によらない心と心の会話ーーーこれを表現するために宏美さんが選択した新たな歌い方なのであろう。それが素晴らしい効果をもたらしている。

 

 

 イントロから繰り返され、耳に残る♪ カンバセーション〜のバックコーラス。宏美さんのボーカルが2コーラス終わった後も、A面最後らしく延々とリピートしながらフェイドアウトして余韻を残す。聴いているこちらもホッと一息つき、レコードを裏返す。すると一転して、スマッシュヒット・シングルの「シンデレラ・ハネムーン」の特徴的なイントロが流れ、B面の新たな流れが始まるのだ。

 

(1978.8.25 アルバム『パンドラの小箱』収録)