宏美さんは現在も年に一度、ライブハウスツアーを行なっている(今年はコロナの影響で東京のみ😭)。メンバーはこのところずっと固定で、ピアノ:青柳誠さん、ギター:古川昌義さん。青柳さんは30周年当時、宏美さんのコンサートツアーをピアニスト・アレンジャーとして全面的にサポートしていたこともある。この「ARIGATO〜未来を信じて」は、その青柳さんの作曲(越野太郎丸さんとの共作)である。

 

 

 曲のタイトルの後ろについている「Mori」とは、その青柳さん率いる5人組「森」(Pf,Vc,Bs,Ds,Gt)のこと。各方面で活躍中のプレイヤーが集結したユニットである。この曲は、その森のアルバム『AMBITIOUS』に、インストと宏美さんのボーカルフィーチュアと、2種類のバージョンが収められている。そして何と、同日に発売になった宏美さんのアルバム『Thanks』には、これも森の皆さんが演奏している、さらに別バージョンが収録されているのだ!1曲で3度美味しい「ARIGATO」である。

 

 インストバージョンは、まず柏木広樹さんのチェロがテーマをこの上なく美しく、唄うように奏でる。青柳さんのピアノのアドリブの後、転調後のBメロは越野さんのギターソロ。ベースの西嶋徹さんは、バイオリンも弾いている。そしてチェロのテーマが回帰して盛り上がりを見せた後、静かに終わるのだ。

 

 ボーカルフィーチュアの方は、2つのバージョンを聴き比べてみよう。まずは『AMBITIOUS』バージョンから。子守歌のようなチェロのイントロで始まる。歌い出しはピアノ1本、そこにギターが入って来る。間奏で5人の音が重なり、チェロがメロディーをリードする。転調後初めはピアノとギターだけで、徐々に盛り上がってテーマが戻って来る。則竹裕之さんはドラムセットを使っておらず、ウインドチャイムやシンバルなどを演奏している。

 

 では『Thanks』バージョンはと言うと、青柳さんのソプラノサックスが入り、ドラマティックに始まる。ベースも弓を使っている。間奏はサックス。ハイハットの音も聞こえる。Bメロの後半はシンバルとドラムロールが盛り上げる。テーマが戻ると、ドラムスの8ビートが刻まれる。宏美さんのボーカルはもちろん両バージョン共、包み込むような温かい歌声だが、バッキングに合わせて、こちらの方が若干歌い上げている感じはある。ハッキリ違うのは、Bメロ最後の「♪ きっと輝く未来を 信じて」の「信じて」のリズムである。『AMBITIOUS』では「しんーじ」と4分音符・付点4分音符・8分音符であったが、こちらは「しんじ」の3つの音が全て4分音符で均等に歌われている。

 

 

 この曲は音域も広く、特に出だしから何度も出て来る「♪ ありがとう」の「あ」の音がE♭とかなり低く、さすがの宏美さんもコンディションによっては出難いこともあるようだ。コンサートでもそのように聴こえることが何度かあった。もちろん、スタジオ録音では美しく響いている。

 

 この曲はアルバムの最後に収められているが、『Thanks』というアルバムタイトルの通り、歌詞に「ありがとう」が出てくる曲が、「心に咲く花」「始まりの詩、あなたへ」「THANKS」そしてこの「ARIGATO〜未来を信じて」と4曲もある。口の悪い妻が、「宏美さんどうしたの?宗教か自己啓発セミナーにでもハマったのかな?」などと言うほど。😅💦ネットのレビューでも「お腹いっぱい」と言うものも見かけた。しかし、この当時の宏美さんは、辛い時期を乗り越え、プライベートでも充実していた様子が窺える。宏美さんの率直な感謝の気持ちが溢れているアルバムなのだ、と私は思う。

 

(2009.5.20 アルバム『Thanks』&森 アルバム『AMBITIOUS』収録)