『Happiness』収録の佳作である。このアルバムの曲を取り上げるのは初めてなので、これも発売当時私がAmazonレビューに書いたものから一部引用してみよう。「大人も聴けるポップスアルバム!」というタイトルである。

 

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 ファンにとっては待ちに待った『Shower of Love』以来7年ぶりのオリジナル・アルバム。12人の作家陣に1曲ずつ提供してもらっているが、アルバムとしての統一感が保たれている。昨年はどちらかというとしっとり聴かせる2枚のカバーアルバムが好評を博した岩崎だが、本作はよりポップな仕上がりで飽きさせない。まず近年岩崎のサウンドを何度か手がけた西脇辰弥編曲による「その瞬間から…」でのっけからグイグイ引き込まれる。(中略)そして先行シングルとなった岡本真夜の「手紙」のあと、静かな高揚感溢れる「春の岸辺で逢いましょう」「天気雨」で頂点に達する。(中略)聴き込めば聴き込むほど深く味わえる、大人のためのアルバムである。

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 そうなのだ。やはりこの「天気雨」は、このアルバム白眉の1曲であると思うのだ。決して派手な曲ではない。音域もさほど高くはないが、サビはファルセットを使用してあくまで優しく包み込むような声である。そして、歌詞もノスタルジックで温かく、聴き終わった後何とも言えない穏やかな気持ちになれ、また力が湧いてくるのだ。

 

 

 アレンジ・キーボードで山川恵津子さん、ギターで古川昌義さんが参加されている。お二人はステキなコーラスも聴かせてくれている。でも英語で、何と歌っているのかよくわからない(汗)。どなたか英語のお得意な方、是非何と言っているのか教えてください!

 

♪ 泣かないで あしたは晴れるよ

 もう泣かないで 涙を拭いて

 そう言ったあと あなたは笑って

 いつも 空を 指差してみせた〜

 

♪ 覚えてる あなたの背中で

 揺られて聞いた あの歌今も…

 あの約束の 変わらない空が

 いつも わたしを 見ていてくれるから〜

 

 少々長く引用してしまったが、前半に登場する「あなた」は、どうやら幼かった「わたし」がむずかると、背負ってあやしてくれ、そして歌を歌ってくれる人だったらしいとわかる。

 

 そしてサビの部分では、

 

♪ 今あなたに もしも逢えるとしたなら

 空を見上げ 微笑む 大人になれたかな〜

 

と歌われ、現在「わたし」は大人になっていて、「あなた」はどこか遠いところにいて、逢うのが難しい存在であるらしい、と思える。

 

 「あなた」が誰だか限定することはせず、現在どうしているのかも明言しない。あくまで聴き手に委ねられるのである。

 

 宏美さんは、この歌を2005年のコンサートで歌ってくれた。生でこの歌を聴くたび、私はパーッと目の前に幼かった頃の光景が浮かんだ。私の手を引き、或いは背負ってくれているのは、母親ではない。父親でも祖父母でもない。私の生家は商売屋であり、むずかる私のお守り役は、店の若いお姉さんたちであり、店を手伝っていた親戚の「おばちゃん」であったのだ。その必ず思い浮かぶシーンは、確かな自分の記憶なのか、後年両親に再三言われて結ばれた映像なのか、もはや定かではない。思い出すと同時に目に涙がにじむのは、懐かしさや、トシを取ったせいばかりではないだろう。商売屋に嫁いだ母は、私をあやしたくとも、姑の手前できなかったのである。大人になった私は、母に背負ってもらえなかった寂しさではなく、私を背負うことができなかった母の気持ちを想って泣くのである。その母も今はすでにない。

 

(2004.10.16 アルバム『Happiness』収録)