『ちゃんと考えてから音を出しなさい。』
『もっと集中しなさい。』
多くの人がレッスンで、言われたことのある言葉ではないでしょうか?
私たちは子供の頃から、
よく考えなさい、集中しなさい。
これをずっと言われてきてるんですよね。
一方、私や夫のレッスンでは、
『考えずにやってごらん。』
『集中しちゃダメだよ。』
とよく言います。
レッスンだけでなく練習をするときでも、
『とにかく考えずにただやる!』
というのはいつも言っていることです。
夫は本番での演奏中においても、
考える過ぎることと、集中し過ぎることは危険でしかない。
とも言います。
もちろん人によっては集中した方が良い人もいるんですが、
良い集中というのは、いろんな条件が整った上で初めて成立するものなんです。
多くの人は、正しい集中の仕方についてを知りません。
そして特に、技術を学んでいるプロセスにおいては、
考えないこと、集中しないこと、というのはとても大切だったりします。
けれども、『何も考えるな。頭を空っぽにしろ。』
と言っているわけではないんですね。
どういうことかというと、
人は考える生き物だからです。
自然にしていれば、いつでも何かを考えているのが当たり前なんです。
だからその状態から、さらにもっと何かを考えなくてはならない、
というのは、それ自体がもう自然ではない、ということです。
ストレスのかかった状態ですね。
必要以上に考えようとすることで、
私たちの機能にはブロックがかかってしまいます。
その結果、上達や成長をスローダウンさせてしまうんです。
考えよう、とするのではなく、
どこか頭の中に少し余白を持つことで、
自分の中の自然な機能に身を任せることができます。
そしてその方が、人はスムーズに成長していけるんです。
夫のクラリネットの生徒さんが、
レッスンですごくうまくいった時、
私が、『今演奏しててどんな感じだった?』と尋ねると、
生徒さん:『なんかまぐれで出来てる気がします。』
と言ってました。
とても正直な反応だと思うのですが、
きっと今までは、
慎重に考えて、それを忠実にやり遂げることで、
何かを掴んだ、できるようになった、
という実感が得られていたんだと思います。
けれども、今できるようになっている事というのは、
あまりにも自然な流れの中で、
自分の自然な機能を使って導かれたものなので、
以前のような、やった感、頑張った感、
みたいなものが感じられないんだと思います。
でも、それこそが正しい方向で、
それをただ考え過ぎずにやっていくこと。
無理のない、無駄のない、
自然で滑らかなモーションの中からサウンドを生み出す、
ということに、ただ慣れていく、だけで良いんです。
慣れるまでは、考えすぎずに思い切りやること!
これがとにかく大事です。
慣れてしまえば、それについてを考える必要もなくなります。
だって、洗濯をするとき、食器を洗うとき、お風呂に入るとき、
その行動ひとつひとつに対して、考えたりはしないですよね?
同じことです。
そして慣れてくると、
テクニックをどのように曲の中で使おうかな、
という風に、表現方法について考えることができるようになります。
つまり、技術があって、表現したい音楽が自分の中にあって、
心や思考が健全に機能していて、
初めて本当の意味で、良い集中を持てるようになるということです。
サウンドを生み出す手前やその過程で、
そのためのアレコレを考えることとは違うのが分かりますよね。
もうひとつ、考えない方が良い理由としては、
技術を学んでいるプロセスにおいて、
あれこれと考え過ぎてしまうと、
恐れや不安の感情とリンクしやすくなるからです。
考えることで、慎重にもなります。
そのことが、体の機能にストップをかけてしまうんです。
練習していて、煮詰まったり、モヤモヤしてしまう理由がなんとなく分かりますよね。
技術が身について、思考から解放されて、
サウンドや音楽を感じながら練習できるようになると、
練習はうんと楽しくなります。
『考え過ぎず、音楽を感じて楽しんで練習しなさい。』
これは夫がよく言うことです。
そういう練習ができるようになってくると、
練習しながら、自分でいろんなことに気づけるようになっていくはずです。
そして、自分自身が自分を導ける先生でいられるようになります。
それこそが音楽家としての自立と言えるんだと思います。
音楽って自然体じゃないと出来ないんですよね。
もっと我がままになっても良い、と思う。