SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 4
砕け散った岩の破片や見渡す限りの砂の大地をしばらく歩いて、山を越えてその先にある草原を過ぎれば小さな村に出ることができる。
その日は週に一度の買い出しの日で、サナはゴルドに留守番を任せ、マルシェへ出かけた。
水は小屋から少し歩いた場所にある水場で補っているので、ここで必要になるのは基本的には食糧くらいのもの。
約半日の距離なので、帰り際には酒場で食事を済ませる。
その最中に、テーブル席にいたサナに声をかけてきた男がいた。
「あんた、たまに見かけるね。どこから来てるんだ?」
愛想のない口調だったが、威嚇するでもなく、また媚も感じられなかったのでサナは応じることにした。修行中とはいえ、人との係わりを完全に絶つというのもなかなか堪えるものだ。
「山を越えたもっと先よ」
「ひとりか?」
「猫がいるわ」
昼食用のセットメニューはパンとシチューと申し訳程度の野菜に葡萄酒。サナは酒類は普通に飲めるが、帰りの
道中のことを考え、いつも飲み物はコーヒーに変えてもらっている。
空になった皿とカップを見て、男はサナがそろそろこの酒場を後にしてしまうだろうと予感していた。
「飲み物をご馳走させてもらえないか?」
「嬉しいけどなぜ?」
「月並みだがもう少し話がしたくなってね」
軟派の類ではなさそうだったので、サナは「搾りたてのジュースを」と告げた。
男がバーテンに二人分の飲み物をオーダーすると、サナは素直に礼を言った。
「どんなお話がいいの?」
「君が何者であるかだよ。なんだか普通の人間に見えないんだ。こんなこと言ったら失礼に当たるかな? でも、
俺にはここにいるというだけで、君がいろんな物事を解く鍵のような何かを握っているように感じられる。馬鹿げているけどね」
「面白い発想だと思う。悪い気なんかしないわよ」
だって正解だもの。
サナはこの男となら、しばらくは会話を楽しめそうだと思った。
SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 3
サナは前の対決のときに過ごした小屋で寝起きしていた。
傍らには猫のゴルドがいる。
毎日のように"氣"を練り、岩を、時には地面をも破壊するため小屋の周囲はすべてが終って無となった戦場のようだった。
ここ数日でさらに"氣"を拡散させ、一度で数十ヵ所に攻撃をヒットさせる術を身につけた。
こうして幾つもの朝と夜が過ぎてゆく。
ここでこのままでいたって、あの男はわたしをみつける。
そう思っていたから、サナはあえてそこから移動しようとはしなかった。
猫のゴルドがしょっちゅうエサをねだるので、その買い出しにマルシェに通う以外は、これといって人づきあいもない。
いつ死ぬかもわからない状況に身を置く自分が、保身を考えることなど無意味。ただ、危険が他に及ぶのなら、少しでも近くに住まう人間たちと(それでも徒歩でたっぷり半日は必要な距離だが)ゴルドだけは助けてやろうと思った。
手のひらから発せられる"氣"は魂の一部でもある。
エネルギーはなんのことはない、ごく普通の食事を摂ることで補充できる。人間のありのままの生活でいい。
食べ物がサナの体を構築する、脳を活性化させる。人であることを思わせる。
当たり前の生活が、最大の鍛錬。
そこに敵がくれば、消す。そんな生活が、もうしばらく続きそうだった。
SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 2
目を真っ赤に充血させた男。
初めて見た、自分より大きな戦士。
相対した瞬間に自分は消された。
火山帯に属する灼熱の国ぺケージャルに生まれ、ストイックなまでに肉体を鍛え上げたサムソンは、歴戦の英雄のひとり、ターシルによって存在を消された。
殺されることとは訳が違った。
肉体は消え、意識が薄らいでゆく中、自分が誰であるかという記憶さえ奪われた。
実際、今も自分が誰であるのか、名前すら思い出せずにいた。
あの屈強な男に一瞬で敗れた以外の記憶は、闘技場で闘ったある女のこと。
あれは誰だ?
そう思う。
そして再び得た肉体。
記憶こそ危うくとも、向かう場所はわかっていた。
自然に足の向いた方角に、あの女はいるだろう。そして長く旅することなく再び会うのだ。
そして闘う。なぜかそれがわかる。
勝つことができれば、自分もデーモン属との戦いに参加することになるのだろう。
しかし、あの女が自分を倒せば。
自分は二度と甦ることなく、本当の闇の世界に沈むことになる。
記憶は完全には甦ってはこない。それでもこうして生きている。
まだやるべきことがあるのか? その疑問を解く必要がある。
それだけがサムソンを再びリースロット大陸に呼び戻した。
生きるために、闘う。
闘うために、生きる。
どちらも同じに見えた。
SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 1
あれから二年以上経ったのかしら。
この世界は相変わらず不安定で未完成なまま。だけど本当に天秤がまったく揺らぐことのないような、そんな一定の重みを保ったまま、世界は存在すると思う?
人もまた然り。
わたしはあの闘いでサムソンに敗れ、そして甦った。
新たなわたしとなって。もっと自由な心を持って。
気がつけばこの世界では、とうとう最後の敵、デーモン属が現れてしまった。
歴戦の英雄たちが再来し、今を生きる者たちを排斥するかのように振る舞う。
最初の犠牲者はサムソンだった。このわたしを、あの夜の闘技場で倒した。
一日だって忘れない。あの夜の闇を照らした篝火の炎、”氣”と”パワー”のぶつかり合い、そしてわたしに駆け寄ったかわいい猫、ゴルド。
今、サムソンは存在そのものを消され、残留思惟だけがそこいらを彷徨っている。
ならば今度こそ、本当の決着をつけましょう。
この世界で最強なのはこの”サナ”であることを知らしめるためにも。
Made it back safety
天はいつもわたしを見守っていて。
それでいて道を外さないよう呼びかけているのよ。
わたしだけじゃない。
あなたも、そこのあなたもよ。
素直になればあなたの味方はすぐそこにいると感じられるわ。


